北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、年末年始のドラマについて書きました。
年末年始のドラマに思う
普遍性見せたHTB作品
年末特番の喧騒が続いていた12月29日夜、HTBスペシャルドラマ「UBASUTE」が放送された。
主人公は“ゆとり世代”と呼ばれる若者の一人、冬馬(大和田健介)だ。自分のやりたいことが見つからないまま、どこか苛立ちながら短期のアルバイト生活を続けていたが、ある日、ネット上でダイアナという女性(イメージ役は波瑠)と知り合う。
連絡を重ねるうち、彼女の励ましや的確なアドバイスが、徐々に冬馬を前向きな青年へと変えていく。
実はダイアナと称していたのは老人ホームで暮らす72歳のトシエ(草村礼子)だった。正体を隠しながらではあるが、トシエもまた冬馬との交流によって精神的に救われていた。やがて自分の居場所を得た冬馬はダイアナに会うことを決める。
このドラマで評価したいのはHTBの海野祐至による脚本と演出だ。若者と高齢者、それぞれが抱える悩みや迷い、そして希望を、地に足のついたストーリーと語り口で丁寧に描いていた。
何より北海道や札幌といった地域性に寄りかからない、一種普遍的な物語として成立させていたことが印象的だ。HTBの自社制作ドラマの歴史もすでに長いが、その中でも出色の1本と言える。
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年が明けて1月4日からNHK大河ドラマ「花燃ゆ」が始まった。しかも初回視聴率16・7%(関東地区)がいきなり話題となった。1989年「春日局」14・3%、77年「花神」16・5%に続く歴代ワースト3位の数字だったからだ。
NHKの看板番組の一つであり、注目度も高いので仕方ないが、初回視聴率だけで否定的な評価を下すのは早計というべきだろう。
吉田松陰をはじめ幕末から維新へと時代を動かした人物たちを描いていくドラマであり、基本的に面白くないはずはない。
ただし今回は吉田松陰の「妹」という、一般的には知られていない人物を主人公に立てたことへの不安はある。この設定が物語の幅を狭めないかという危惧(きぐ)だ。
だが初回を見る限り、子役の山田萌々香の好演もあって、少なくとも文(ふみ)という女性が少女時代から「人をつなぐチカラ」を持つ人物であることは伝わってきた。
2回目からは主演の井上真央も本格的に登場して、文のヒロインとしての存在感も増している。今後松陰はもちろん、後に最初の夫となる久坂玄瑞や高杉晋作たちとの関わりも興味深い。視聴率ばかりを指摘する声に惑わされず、ドラマそのものと向き合っていきたい。
(北海道新聞 2014.01.13)