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コメントした、「クローズアップ現代」やらせ疑惑問題の文春記事

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独占スクープ
「記者に頼まれ、架空の人物を演じた」出演者が告白
NHK『クローズアップ現代』
やらせ報道を告発する
看板報道番組の「詐欺特集」で、
社会部敏腕記者は禁断の“取材”に手を染めた。
知人に「多重債務者」、「ブローカー」の役を依頼。
舞台となった「事務所」も実在しない。
しかもこの“やらせ”は、
「NHKスペシャル」佐村河内問題の発覚直後に行われたのだ。

3月1日、大阪市北区にあるANAクラウンプラザホテルのロビーラウンジで、3人の男が深刻な表情で膝を突き合わせていた。2人の男性は番組出演者。スーツ姿に眼鏡の男は、NHK大阪社会部のN記者だ。真ん中に座った50代の男性は、こう抗議を始めた。

「どうして“クローズアップ現代”であの映像が使われたのか聞きたいだけ。(知らないところで)全国放送されてしまったんでね」。

N記者は、不安気にキョロキョロと視線を泳がせながらこう応えた。「いやー、絶対にバレないと自信を持っていたんですけど」。

三者会談はその後、堂島ホテルに場所を移して続けられた。男性は再びこう不満をぶつけた。「知り合いにも、『あのブローカー、お前に似てる』って言われますわ。自分、(ブローカーを)やってないし」。

N記者は更に声を潜め、囁くようにこう依頼した。「今回みたいに本当にバレちゃマズい時には、音声を二重三重に変える。絶対に声紋鑑定(で本人と特定)は出来ない。松木さんじゃないかと言ってこられる方に対しては、シラを切っていただいて。今後もそういう方向でやっていくということで」。

縋(すが)るような眼差しで懇願するN記者は、一体何を守ろうとしていたのか――。

「NHKでやらせの映像が流された」。今年に入り、ある関係者から小誌に情報が寄せられた。問題となったのは、『クローズアップ現代』(以下、クロ現)で昨年5月14日に放送された『追跡“出家詐欺”~狙われる宗教法人~』という回だった。

月曜~木曜の午後7時半から放送されるクロ現は、国谷裕子キャスターが司会を務める報道番組。政治経済から社会世相まで、幅広いテーマを掘り下げて伝えるNHKの看板番組だ。

番組中盤に問題のシーンが

「この番組のやらせに巻き込まれた」と言うのが、冒頭でN記者に抗議していた松木康則氏(仮名)である。松木氏が憤懣やるかたない表情でこう語る。「私は北新地のクラブで従業員をしています。ところが、クロ現では“ブローカー”のテロップを付けられ犯罪者であるかのように流されました。その憤りは今も収まりません」

松木氏の証言を聞く前に、番組の内容を紹介する。番組が扱った“出家詐欺”とは、お寺で得度(出家の儀式)を受ければ戸籍上も法名への変更が可能となる制度を悪用したもので、宗教法人と結託して多重債務者を別人に仕立て上げ、ローンや融資を騙し取る詐欺の手口のことである。

番組は13年に立件された、滋賀県の寺を舞台に1億3000万円余りを騙し取った詐欺事件の概要を報じ、出家詐欺が社会に蔓延している現状をリポートするという形で構成されている。やらせが指摘されているのは中盤のリポート部分だ。主要部分を再現する。

≪私たちは、出家を斡旋するブローカーの1人が関西にいることを突き止めました。辿り着いたのはオフィスビルの一室。看板の出てない部屋が活動拠点でした。ブローカーは、『経営が行き詰まった寺などを多重債務者に仲介することで、多額の報酬を得ている』と言います≫

仰々しいナレーションをバックに、記者が「ブローカーの事務所」のドアを開ける。そして、ブローカーへのインタビューが行われた後、ブローカーと多重債務者のやり取りを、外から窓ごしに隠し撮りした映像が流れる。その映像は、次のナレーションから始まる。

≪ブローカーのもとには多重債務者の訪問が後を絶たないといいます。私たちが取材したこの日も数百万円の借金を抱えた男性が現れました。
多重債務者「ちょっと金融のほうが苦しくなりまして。こちらさんにさえ来ればもう一度やり直せると伺って来たもので」
ブローカー「何件ぐらい?」
多重債務者「もう7~8件つまんでもうこれ以上は首つるしかないというところまできてますけども」
ブローカー「まずは別人になるって方法があります。こちらのほうでピックアップしたお寺で得度しましたと申請すれば名前が変わります。少しね費用がかかりますけど。50万円前後」≫

N記者とXがタクシーで迎えに

そして、相談を終えてビルを出た多重債務者を、野本記者が追いかけて路上で直撃するシーンが続く。

≪記者「犯罪につながる認識は?」
多重債務者「もうカードも作れないですし、ローンも組めませんし生きていくために仕方がない」≫

リポートは次のナレーションで締め括られた。

≪多重債務者を出家させ融資を騙し取る出家詐欺。宗教法人を悪用した巧妙な手口が水面下で広がっている実態が明らかになりました≫

番組では記者以外の顔は一切映っておらず、音声も変えられていた。また、事務所内やビルの外観にはすべてぼかしが入っていた。

このリポートは、昨年4月25日に「かんさい熱視線」(NHK大阪)で取り上げられ、5月14日の「クロ現」で全国に放映された。番組に登場した記者がN記者であり、「ブローカー」が松木氏、そして「多重債務者」が冒頭の三者会談にも同席していたXだった。

松木氏の証言に戻ろう。「私はブローカーではありませんし、出家詐欺に携わったことも一度もありません。番組に登場するブローカーは架空の人物です。N記者に依頼されて私が演技したもので、私はこの映像がテレビで流されることすら知らなかったのです」

一体、どういうことか。「一昨年、知人のXから『松木ちゃん、宗教絡みの話、得意だよね』と声をかけられ、N記者に引き合わされて、自分の知っていることをお話ししました。私は昔、寺宝の売買に関わっていたことや、お寺で内弟子となって修行して得度出家式を受けたことがある。実は、自分には前科があり服役した過去があるのですが、贖罪の意味と親不孝をした母親の菩提を弔えればと考えて、修行したんです。ただ、親から貰った名前を変えることに抵抗があり、結局、僧籍を取ることはしませんでした。

また、刑務所に入っている時に知り合った人物から“出家詐欺”の話を聞いたことがありました。番組でしゃべった『50万円』という金額などの話は、十数年前に聞いた、また聞きの話なんです。しばらくしてXから『もう一度、話を聞きたい』と言われ、昨年の3月下旬頃に3人で会うことになったのです」(同前)

昨年3月といえば、NHKは佐村河内守氏の問題で大揺れに揺れていた時期である。“全聾の作曲家”として名を馳せた佐村河内氏にゴーストライターがいたことを小誌がスクープ。「NHKスペシャル」など多くの番組で彼を特集していたNHKは、度重なる訂正とお詫びに追い込まれた。

「NHKは調査委員会を立ち上げ、『事実とは異なる内容を放送したことを真摯に受け止め、反省しなければならない』とする調査報告書を3月16日にまとめ、再発防止を誓いました。局内ではより正確な報道を期すべきであると、再確認されたといいます」(全国紙社会部記者)

まさにその時期に、N記者は禁断の“取材”に手を染めていたことになる。

松木氏が当日を振り返る。「その日は土曜日でした。私は平日はクラブの仕事があるので、土曜日に会うことになったんです。その日、N記者とXは私の自宅までタクシーで迎えに来て、堂島ホテルのカフェに案内されました。お寺についての取材だと思っていたら、N記者はホテルのカフェで私に向かって『ブローカーのような掛け合いをしてほしい』と依頼してきた。Xがブローカーで、私が多重債務者という配役でしてほしいと。

再現VTRでも録るのかなと思いながら、出家に対する知識もあったので自分の意見も出したりしました。すると、N記者が『松木さんのほうが良く知っていますね。松木さんがブローカー役で、Xさんを多重債務者役にしましょう』と言ってきた。N記者は『役』という言葉を使っていたと記憶しています。N記者からは、『こういう流れで』とか『最初のお金がいかに後々、安く感じられるか言ってください』などと指示を受けました」

撮影後には三人で居酒屋に

打ち合わせを終え、N記者は「じゃあ行きましょうか」と言い、2人を新大阪駅近くのオフィスビルの一室に連れて行ったという。

「オフィスはガランとした部屋で、窓際にL字型のデスクが置いてあった。既に部屋にはスタッフが2、3人いて、カメラも隠し撮り風のものも含めて3、4台設置されていた。『顔は出しません。指輪と時計を全部はずしてください』と言われ、セーターを渡されて着替えさせられた。セーターはN記者が『家から持ってきた』と言ってきた。当時、自分は今よりだいぶ太っていたのでピチピチでした。

台本は無く、N記者からは『打ち合わせ通りにやってください』とだけ言われた。やりとりはすべてアドリブ。窓の外がキラッと光ったので、見ると『18禁』のマークが見え、近くに人影とカメラのようなものがあった。隣は風俗店が入居するビルで、そこからも隠し撮りをしているんだと初めてわかりました」(同前)

N記者は、撮影が終わると松木氏とXを居酒屋に誘い、3人は食事をしながら歓談したという。会計は野本記者が支払った。N記者の行きつけの店で、居酒屋の店主は小誌の取材に「野本記者はよく来られていましたね」と証言した。

松木氏の話が事実であれば明らかなやらせだが、NHKがこうした取材をするとは俄かに信じ難い。

小誌記者は松木氏に、出家詐欺に関わったり、ブローカーをしたことが過去になかったか、あるいはN記者に『ブローカーをしたことがある』と発言したことはないか、幾度も確認をした。だが、松木氏は「一切無い」と繰り返した。松木氏が勤務するクラブの上司にも話を聞いたが、「うちは副業禁止。彼が出家詐欺のブローカーだったなんて、聞いたことが無い」と証言した。

ではなぜ、松木氏は演技をしてしまったのか。松木氏はこう説明する。「Xから『とにかく、俺の顔を立ててくれ』と言われたんです。私は当時、Xから50万円を借りていて、その負い目もあった。そもそもN記者からは名乗られたことも無いし、名刺も貰っていないのです。撮影後の居酒屋でXが彼の社名や名前を口にしたので、NHKの記者でNという名前だと初めてわかったくらい。その時にN記者から、映像をどう使い、どの番組でいつ放送するという説明も一切ありませんでした。Xからはその後も、『またお願いされとんや。薬とか危険ドラッグ知ってる奴、フリできる奴いないか?』と聞かれたりしましたが、断っていました。

今年になって、知人から『NHKのウェブサイトを見てたら、ブローカーの映像がクロ現でも流れていた。全国放映されていたみたいだぞ』と聞かされて驚きました。父親からも、『お前はブローカーなんかしているのか!』と叱責されました。顔は映っておらず音声も変えられていましたが、私は喋り口調や手の動かし方に特徴があって、それで松木じゃないかと。それを知ってN記者に抗議した時も彼は名刺がないと言い、最後まで納得できる説明をしようとしなかった。もしN本記者が、私に前科があることで適当に犯罪者役を演じさせ、報道しても構わないと考えたとしたのなら、絶対に許せません」

このN記者とはどのような人物なのか。

「2004年に、『週刊新潮』がN記者の金沢支局時代のパワハラやセクハラについて報じたことがあります。しかし彼は左遷されることもなく、社会部のメインで活躍を続けている。早稲田大学の雄弁会出身で、大学時代は故・小渕恵三首相の事務所に出入りしていたこともあると聞いている。東京の警視庁担当などを経て、現在は大阪社会部に在籍。敏腕記者という評判で、特に薬物問題に詳しい。凄いネタを取ってくる男として知られ、『クロ現』にも何度も出演してコメントしています」(NHK局員)。

NHK大阪放送局前でN記者を直撃した。

――出家詐欺の番組でやらせの指摘がありますが?
「ちょっと分からないんで」

――映像の人物はブローカーではないのでは?
「いやいや、間違い無くブローカーの方ですよ。そういう風に紹介を受けてロケしていますので」

――「違う」という証言を得ています。Nさんのセーターをブローカー役の松木さんが着ていますよね?
「……詳しいこと、そこまでだって……」

そして、N記者は逃げるように局内に入っていった。多重債務者として映像に登場するXはこう答えた。

――映像がやらせという指摘がありますが?
「オレ、多重債務者やで。(松木氏は)ブローカーやで。裏でやっとるんや」

――松木氏はブローカーを否定していますが?
「犯罪やから、否定はするでしょ」

――N記者のことは元々ご存知でしたか?
「うん」

――映像では直撃を受けてましたが、その時に初めて会ったわけではない?
「(初めて)じゃないよ」

Xはやらせを否定するものの、N記者と元々知り合いだったことは認めた。

撮影で使われたオフィスビルの一室を訪ねた。その部屋に入居する会社の代表がこう証言する。「うちの事務所が撮影に使われていたなんて、まったく知りませんでした。松木さんという名前も知らない。実は昨年の一時期、ビジネスで付き合いのあったXさんに『打ち合わせで使いたい』と言われ、彼に鍵を数ヵ月間貸していました。私は他にもオフィスを持っていて、その時期はこの部屋をあまり使っていなかったものですから。

Xさんが多重債務者だなんて聞いたことありません。分譲マンションを幾つか持っていて賃料収入もあると聞いていたので、お金に困っていないと思いますが。確か、マンションの管理組合理事長もやっていました。N記者もXさんに紹介されて知っていますよ。N記者が東京にいた頃からの付き合いで、彼は真面目そうに見えましたけど、うちの事務所がブローカーの活動拠点だなんてとんでもない。もし勝手にそういう使い方をしたなら、本当に腹が立ちます」

会社代表は、現場となったオフィスの室内を見せてくれた。松木氏の証言通り、窓際にL字型のデスクが鎮座している。窓の向かいには風俗ビルが建っており、松木氏が見たという「18禁」のマークも目視できる。

ブローカー役の人物は架空、多重債務者はN記者の知人のX、活動拠点という事務所はニセモノ――。これをやらせと言わず、何と言うのだろうか。

上智大学の碓井広義教授(メディア論)が語る。「ブローカーが架空の人物だという指摘が事実なら、悪質なやらせと言えます。これを認めたらテレビは何だって撮れるし、それをしないことでメディアは信頼を保ってきた。視聴者を欺いたことになり、『クローズアップ現代』という番組の信頼性を損なう大問題です。早急に内部調査を行い、放送内容が事実でなければ、おわび・訂正などの措置が必要となるでしょう」

冒頭で述べたように、松木氏はN記者にホテルで抗議した際に“口止め”を依頼されているが、3月7日には電話でも再度抗議している。その際には、こんなやり取りがあった。

松木氏「Nさん、自分(松木)の仕事知ってますよね?」
N記者「新地で働いておられますよね」

そしてこう続けた。

「確かに、いつもその仕事(ブローカー)をやってる人のように見えたかもしれないけど、普段新地で働いているのに、それは申し訳なかったと思うんで、その辺はしっかりお詫びしたいと思いますので」

N記者の破綻した弁明

小誌記者がN記者とXを直撃した日の翌日、Xは松木氏に電話してきた。

X「とにかくな、N(記者)ちゃんが言うには『(文春に)記事が載ったら終いやと。足代渡すから、止められへんかな』言うてる。今回、こんなことになったから、『松木ちゃんに足代・御礼を出すから(Xが)動いて』言うてたわ」
松木「いわゆる口止め料。袖の下な」
X「うん」
松木「そんなんで動く人間ちゃうけどな、オレ」

N記者がXに対し、松木氏に“口止め料”を払うと言ったというのだ。

一方、N記者は小誌記者の直撃の3日後、電話をかけてきてまくし立てた。「(松木氏が言っていることは)ガセです。松木氏は●●(罪名)の前科があるような人ですよ。Xさんから『(出家詐欺を)これから本格的にやって行く人がいる』と聞き、そこに(松木氏が)現れた。(松木氏は)信頼性のある話をしたし、(本人は)ブローカーとは言ってなかったけど、そういう意味だと解釈した。Xさんが多重債務者であることは、関係書類で確認しています。やらせじゃない」

だが、「ブローカーの事務所」について聞くと、「プライバシーに関わることだから……」と歯切れが悪い。

N記者は松木氏を中傷し、一方で繰り返しXが多重債務者であると強調する。だが、XXが実際に多重債務者であったとしても、やらせ否定の論拠にはならない。野本記者の言う「これから本格的にやって行く」という話と「ブローカーのもとには多重債務者の訪問が後を絶たない」というナレーションは矛盾するし、そもそもXが鍵を持つオフィスを「ブローカーの活動拠点」としたこと、知人のXを初対面かのように直撃したことだけを取っても、まぎれもないやらせである。

NHKはこの事実をどう捉えているのか。籾井勝人会長を自宅で直撃した。

――「クロ現」で出家詐欺のやらせ報道があったことについてお聞きしたい。
「いや、僕知らないから。広報に聞いてください」

その広報局の回答は次のようなものだった。「今回の番組は、十分取材を尽くして制作したものであり、やらせやねつ造があったとは考えていません。記者がブローカーを演じるように依頼した事実はなく、また記者が『足代、御礼を出すから、何とかならないか』と依頼した事実もありません」

NHKは十分調査を尽くし、受信料を払う視聴者に詳細に報告するべきだろう。

(週刊文春 2015.03.26号)

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