私たちの世代にとって、銭形平次といえば、大川橋蔵さん。
ただし“女房のお静”は、八千草薫さんより香山美子さんのほうが馴染みがあります。
そういえば、昨年、原作である野村胡堂「銭形平次捕物控傑作選」が、文春文庫からシリーズで出ました。
高齢化社会の中で、あらためて需要があるのかもしれません。
作家・野村胡堂=音楽評論家・あらえびす。
クラシック音楽評論では、同じ作家で、「柳生武芸帳」の五味康祐さんも、よく知られていました。
時代小説とクラシック。
面白い作家たちですね。
以下、週刊新潮に書いた書評です。
あらえびす『クラシック名盤 楽聖物語』
河出書房新社 3024円
”銭形平次”の作家・野村胡堂が別名で書き続けた音楽評論、半世紀ぶりの再刊だ。ヘンデルからドビュッシーまで17人の大音楽家の伝記と、107人の作曲家の別伝が並ぶ。レコード評論のパイオニアが選んだ名盤と評価は、時を経ても凛として揺らぐことはない。
高田文夫『誰も書けなかった「笑芸論」』
講談社 1350円
演芸好きの少年が長じて人気放送作家となった。森繁久彌、三木のり平、青島幸男からビートたけしまでを、ここまで体感的に語れるのは著者しかいない。特に、盟友・戦友ともいうべきビートたけしが世に出るまでのエピソードは秀逸。「世界の北野」の原点だ。
村松友視『金沢の不思議』
中央公論新社 1890円
北陸新幹線の開業でスポットを浴びる金沢。氾濫するガイド本とは一線を画すのが本書だ。登場するのは長唄・囃子の名手、加賀竿・毛針の達人、宝生流能楽師など。中でも茶屋町に流れる闇笛の逸話は絶品。このまちに通いつめた者ならでは距離感と視点が見事だ。
(週刊新潮 2015.04.02号)