北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、自民党「マスコミを懲らしめる」発言問題について書きました。
政権与党の報道威圧
問われる当事者意識
6月25日に行われた自民党議員の勉強会で、メディアに対する威圧的発言が続出し、現在も大きな問題になっている。それも当然で、耳を疑うような言葉が並んでいた。
「反・安保(安全保障関連法案)を掲げ、国益を損ねるような一方的な報道が為されている」ので、「懲らしめるには広告料収入がくなるのが一番」。「悪影響を与えている番組を発表し、そのスポンサーを列挙すればい」と言うのだ。
これはつまり、政権に批判的な報道機関は広告主を通じて規制すべきだという暴論である。民放の足元を見た“兵糧攻め”という発想にあきれてしまう。
翌26日、テレビはこの件を報じたが、その内容や温度には明らかにバラつきがあった。
NHK『ニュースウオッチ9』では河野憲治が、「報道の自由、表現の自由は、言うまでもなく民主主義の根幹。自民党の若手議員の発言や、とりわけ作家の百田尚樹氏による、沖縄の2つの新聞は潰さなければならないという発言は、報道機関に所属する者として決して認められない」。
また『NEWS ZERO』(日本テレビ)の村尾信尚は、「メディアの是非は視聴者や読者が決めます。こうした発言をする政治家の是非は選挙で有権者が決めます」と述べた。
『NEWS23』(TBS)の膳場貴子は、「権力による報道規制に他ならないと思うのですが」と、コメンテーターに問いかける形だった。
『報道ステーション」(テレビ朝日)の古舘伊知郎はこの話題を展開した後で、「こういう話をしているだけで、この番組も懲らしめられるんですかね」と苦笑い。「政権が気に入る意見とか、お気に召す報道をすることで、世の中が豊かになるとは思えない」と締めくくった。
ちなみに、『あしたのニュース』(フジテレビ)と『ワールドビジネスサテライト』(テレビ東京)では、ニュースとして取り上げてはいたが、VTRによる説明のみで、キャスターなどが触れることはなかった。残念ながら、その腰の引け具合は当事者意識の欠如と言わざるを得ない。
今回、与党議員たちが行った問題発言の背景には、安倍政権が強めている「メディアコントロール」がある。4月にも、自民党が放送局の経営幹部を呼び、個別番組の問題について異例の事情聴取を行ったばかりだ。
しかし、これまでも今後も、多様な情報を発信すると共に、権力を監視し、問題点を指摘することはジャーナリズムの責務である。
(北海道新聞 2015.07.06)