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Channel: 碓井広義ブログ
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月刊民放で、「あまちゃん」のこと

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民放連(日本民間放送連盟)が発行する専門誌「月刊民放」。

連載している放送時評で、朝ドラ「あまちゃん」の前半戦を中心に書かせてもらいました。


クドカン脚本
「あまちゃん」の先進性
4〜6月期の連続ドラマも全部見てきた。そのなかで評価していたのは、『ラスト♡シンデレラ』(フジテレビ)と『雲の階段』(日本テレビ)だ。

前者はテンポが小気味よく、笑い飛ばして見るにはうってつけだった。昼ドラほどドロドロせず、かといってトレンディドラマのような恋愛の重さもない。“ちょっとエッチな”シーンも下品というほどではないので、OLやママ友が「昨日見た?」と会話のネタにできたことも人気が出た理由だろう。

後者の見どころは、長谷川博己が演じる無免許医師の葛藤だった。違法ではあるが人の命を救っているという自負。底辺から抜け出し、陽の当たる場所へ行きたいという欲求。また、稲森いずみと木村文乃が演じる、立場もタイプも違う女性2人をめぐる三角関係も複雑だ。自分の中で湧き上がってきた人生に対する野心と欲望をどこまで解き放つのか。破滅への階段とわかりながら登っていく“内なるせめぎ合い”は見応えがあった。

しかし、毎回リアルタイムで見たうえに、録画して繰り返し見るのは、NHK『あまちゃん』だけである。NHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)は1961年に始まった。今期の『あまちゃん』で88作目になるが、これは半世紀以上の歴史を塗り替える、画期的な1本だと言っていい。その理由の一つは過去に例のない「トリプルヒロイン」の朝ドラだからだ。もちろん主役は天野アキ(能年玲奈)だが、その母親・春子(小泉今日子)も、祖母・夏(宮本信子)もいわゆる脇役ではない。3人が三つの世代のヒロインとして物語の中で拮抗しているのだ。「あまちゃん」の面白さ、楽しさの源泉はそこにある。

なかでも、このドラマの小泉は必見だ。80年代に聖子ちゃんカットで家出し、24年後に娘を連れて帰郷するまでの“女の軌跡”を全身に漂わせている。しかも、それが元アイドルにして現在は個性派女優の小泉と重なって見えるのだ。ノーメークに近い顔。ややふっくらした体型を包む服装。そしてスナック「梨明日(りあす)」のカウンターのなかから、「あんた、ばっか(馬鹿)じゃないの!」とヤンキー風タンカを切る小気味良さ。昨年の『最後から二番目の恋』(フジテレビ)でも光っていたが、今回の小泉は40代女性としてよりパワーアップしている。

能年の天然、小泉のヤンキー、宮本の頑固と、それぞれの素の持ち味が十二分に生かされているのは、クドカンこと宮藤官九郎が手がける脚本のおかげだろう。劇団「大人計画」の役者として出発し、やがて演出・脚本でも頭角を現した宮藤。ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』や『木更津キャッツアイ』などで見せたコメディのセンスが朝ドラという舞台でフル稼働している。すでに流行語になっている「じぇじぇ!」をはじめ、登場人物たちのユーモラスな会話で全体のトーンが実に明るい。

クドカン脚本のポイントはほかにもある。一つは異例のナレーションだ。朝ドラでは、局のアナウンサーが第三者的な「神の視点」で展開を補足する客観ナレーションか、あるいはドラマの登場人物が回想としてナビゲートするかの、どちらかが多い。後者の場合、話し手が見聞きして感じたことは話せても、自分以外の感情は表現しないのがドラマの“お約束”だ。ところが今回、宮本信子演じる祖母・夏が他の登場人物の気持ちも代弁する、型破りの語りも見受けられる。宮本が、いわば神も役も超えた存在になっているのだ。

例えばヒロインのアキが妄想するシーン。片思いの先輩に憧れるあまり、夢の中で先輩から告白される様子が淡々と描かれたのだが、視聴者の心理を逆手にとり、宮本の語りは「もう先に言っちゃいますけど、これは夢です。いまさらびっくりしないと思いますが」とネタばらしをして笑いを誘う。一歩間違えば、出しゃばり過ぎと視聴者が違和感や不快感を抱く危険で挑戦的な技だが、クドカン脚本を体現する宮本の語りの力と相まって、物語を重層的かつスピーディなものにしている。

また、『あまちゃん』が試みているのは母娘3代の家族論だけではない。過疎の町をめぐる地域活性化論や、アイドルの誕生と広がりのメカニズムを探るメディア論まで展開している。全都道府県から地元アイドルを集めた、AKB48ならぬGMT(じもと)47。秋元康を連想させる、スーツに黒メガネのプロデューサー(古田新太の怪演)。ドラマが時代を映す鏡であり、時には社会批評でもあることを意識した仕掛けが満載である。

今後、東日本大震災をどう物語に取り込んでいくのか注目だ。

(月刊民放 2013年7月号)


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