火山の噴火、地震、大雨、洪水、そして安保法案と、どうにも重たい秋になっています。
本の世界では、村上春樹さんの新刊エッセイ『職業としての小説家』を読んでいる秋、ということになりますが、これまでのエッセイとはまた違った意味で面白い。
こんなふうに、作家としてのこれまでや、芥川賞について、村上さん本人が語る日が来ようとは。
「ふむふむ」や「なるほど」の言葉もたくさん。
重たい秋を払拭とはいきませんが、気持ちの支えとなる一冊に感謝です。
「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本でした。
濱谷浩:著、多田亞生、片野恵介:監修
『生誕100年 写真家・濱谷浩』
クレヴィス 2401円
戦前からの写真家である濱谷が、マグナム・フォトで日本人初の寄稿写真家となったのは昭和35年。安保闘争で亡くなった樺美智子さんを捉えた1枚もある。「モダン東京」から「戦後昭和」まで200点が並ぶ。「雪国」や「裏日本」は民俗学的価値も高い。
真山 仁 『ハゲタカ外伝 スパイラル』
ダイヤモンド社 1620円
シリーズ最新作にして、初のスピンアウト書き下ろし。企業買収の奇才・鷲津政彦と戦い続けてきた、事業再生家・芝野健夫が主人公だ。舞台は芝野が転じた大阪の町工場。高い技術力を持ちながら経営難にあえぐ零細企業の現実を踏まえ、緊迫の攻防戦が展開されていく。
四方 洋 『新聞のある町~地域ジャーナリズムの研究』
清水弘文堂書房 1620円
元「サンデー毎日」編集長が注目するのは地域紙だ。ブロック紙や県紙よりも小さなエリアを対象とした、地域密着型新聞である。登場するのは、北海道の十勝毎日新聞から熊本県の人吉新聞まで26紙。現地取材で見えてくるのは、報道以上の役割を担う真摯な姿だ。
成毛眞、折原守 『国立科学博物館のひみつ』
ブックマン社 1994円
猛烈な博物館マニアと前副館長による科博マニアックツアーだ。樹木、鉱物、動物を手掛かりに列島を縦断するかと思えば、何万年もの歴史を遡る。科博は多様なジャンルのマニアやファンに開かれたワンダーランドだ。標本という“実物”の力は測り知れない。
(週刊新潮 2015.09.17号)