【フジ・メディアHD】
放送局の看板を下ろす日
「楽しくなければテレビじゃない」を合言葉に“軽チャー”路線をひた走ってきたフジテレビが気息奄々である。
1980年代から2000年代は視聴率、売上高で他局を圧倒。日本最大の民放放送局の座に君臨し続けたが、10月30日に発表された15年4~9月期決算は売上高が前年同期比6.6%減の1466億円、営業利益は約10億円の赤字。59年の開局以来、初の赤字に転落してしまったのだ。もちろん親会社であるフジ・メディアHD全体の収益を見れば、グループ連結で売上高は6433億円(14年度決算)。256億円(同)もの営業利益がある優良企業だ。
■放送外収益が4割
ホテル事業が好調なサンケイビルによる不動産事業などの放送外収益が約4割を占めており、“本丸”のフジテレビが赤字転落したとはいえ、即座に屋台骨が揺らぐことはない。
しかし、「最近はゴールデンタイムの視聴率でテレビ東京にも抜かれるなど、視聴者離れが深刻です。視聴率の低下が広告収入減を招き、番組制作費は削減。それがさらなる視聴率低下を招くという悪循環に陥っている。これではスポットCMも期待できません。にもかかわらず、社員の給料は業界トップ水準(平均年収1447万円)ですからね」(経済評論家・杉村富生氏)。
視聴率低下の負のループがジワリジワリと全体をむしばんでいるのは確かなのである。となればテコ入れ策が求められるが、トップの亀山千広社長(59)は11月27日の定例会見で低迷理由について「2011年3月11日」がターニングポイントだったとして、「(フジが)今まで押し出してきたワクワク感だったり、ドキドキ感だったり、少し浮世離れしたお祭り感がどこかで絵空事に見えてしまうようになったのかなと思います」とコメントして大炎上してしまった。まるで「3・11」の悪影響はフジばかりともとれる言い草には呆れるしかない。
上智大・碓井広義教授(メディア論)はこう言う。
「亀山社長の言葉はトップとして当事者意識が感じられません。ライバルの日テレはフジが我が世の春を謳歌した時代に、徹底的にフジの番組作りを分析した。きっちりと負けを認めた上で、何ができるか考える謙虚さがあった。今のフジは局地的敗戦に対症療法しか行わず、ズルズルと撤退戦を続けた旧日本軍のよう。それでもまだ、2020年の東京五輪がやってくればお台場の景気も上向くのではという“神風”を期待する空気すらある。負けたんだという強烈な自覚がない限り、再生のための第一歩を踏み出せない気がします」
■ポスト亀山候補は遠藤周作の子息?
株主総会でも老害が指摘される日枝会長以下、幹部には現場上がりのプロデューサーが多く、「景気のいい時代しか経験してないバブル組ばかり。感性が時代に合っていないということに気がついていない」(フジ社員)という声も。
また、「結果が出せず、風水にまで頼りだした亀山社長はもう見切られていて、後任には広報畑で実績のある作家の故・遠藤周作の子息の遠藤龍之介専務を推す声もある」(別のフジ社員)という。
しかし、人事の刷新だけで数字が上向くかどうかは未知数。結局、視聴率低下に歯止めがかからなければ、「お台場合衆国」のような事業収入に期待するしかないし、日枝会長はお台場カジノ構想も他地域に比べて劣勢ながら諦めていないというから、すでに4割に迫る放送外収益がさらに増えるのは自明の流れだ。
となると、すでに不動産収益が50%近くを占め、“赤坂不動産”とも揶揄されるTBSのように、フジテレビでも放送局から不動産屋に看板をすげ替える日も遠くない未来である。
(日刊ゲンダイ 2015年12月16日)