「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
伊藤裕作 『愛人バンクとその時代』
人間社文庫 864円
著者は40年のキャリアを持つ風俗記者。かつては年に百人の風俗嬢を取材していた大御所である。
本書の中心は、昭和58年に大ブームとなった愛人バンク「夕ぐれ族」だ。組織のオーナーで広告塔は筒見待子。後に売春斡旋容疑で逮捕される。ちなみに「愛人バンク」のネーミングを伝授したのは著者だ。体験取材の形で何人かのシロウト女性と出会い、交際の一部始終を報告していく。
バブル景気へと向かう、浮き足立った空気を背景に、愛人獲得の淡い夢を追った男たち。一方どのような若い女性たちが、何を求めて自らに値札を付けたのか。戦後ニッポンの性文化史、欲望史に咲いた“あだ花”の実相が見えてくる。
池井戸 潤 『下町ロケット2 ガウディ計画』
小学館 1620円
この秋のヒットドラマ『下町ロケット』。原作は直木賞受賞作である同名小説と本書だ。ロケットエンジンのバルブに加え、最先端の医療機器開発が焦点となっている。連続する危機に、「逃げたら何ひとつ、残らない。実績も評価もだ」と主人公は一歩も引かない。
河原一久 『スター・ウオーズ論』
NHK出版新書 842円
日本語字幕監修者でもある著者は、映画『スター・ウオーズ』を最もよく知る日本人の一人だ。本書の狙いは、「なぜ面白いのか?」の解明にある。映画史における位置づけ。描かれている物語世界の意味。シリーズが持つ文化としての価値。新作を見る前に読むべし。
(週刊新潮 2015.12.17)