特集ワイド
大予測2016
<芸能>
「真田丸」三谷氏の執念 ペリー氏
「紅白」1年かけ再考を 碓井氏
今年はどんなテレビドラマや音楽が話題になるのだろうか。テレビウオッチャーでコラムニストのペリー荻野さん(53)、メディア論が専門の上智大教授、碓井広義さん(60)が語り合った。【構成・江畑佳明、写真・内藤絵美】
−−まずドラマについて。昨秋から続くNHK連続テレビ小説「あさが来た」は、平均視聴率20%台を保ち、好調です。その理由は何でしょうか?
ペリー氏 時代設定が幕末から明治で「ちょんまげでスタートした初めての朝ドラ」と私は呼んでいます。時代劇好きの私は「やっと来た!」と歓喜しています。
碓井氏 ハハハハハ。
ペリー氏 制作側が朝ドラの本流である「女性の一代記もの」をしっかり研究しているのが大きい。朝ドラは「女性の一代記もの」と「自分探しもの」があります。1990年代以降の視聴率低迷期は「自分探し」が多かったのですが、本流は「おしん」(83〜84年)に代表されるように激動の時代を生き抜く「女の一代記」。最近では「カーネーション」(2011〜12年)や「花子とアン」(14年)がありました。
碓井氏 主人公のモデルは豪商・三井家のお嬢さんで、実業家として日本女子大学設立に尽力した広岡浅子。物語の軸がしっかりしているから、安心して見ていられる。それと時代設定が幕末から明治という大激動期である点が大きい。現代は明日が見えにくい閉塞(へいそく)感が漂っていますが、現代と比べものにならないほどのパラダイムシフト(社会構造の大転換)があった時代を、ひとりの女性がどう生き抜いたか、視聴者は参考にしたいのかもしれません。
ペリー氏 舞台が関西というのもいい。あの時代を新鮮な角度から見られますから。
碓井氏 同感です。幕末維新ものは、江戸を舞台にすると武家中心の話になってしまう。武家だとしきたりに縛られて面白くありませんが、「あさ」は大阪の商人たちが自由で伸び伸び活躍します。
ペリー氏 また、細かいところでは「あまちゃん」(13年)で主人公の「じぇじぇじぇ」という決めぜりふがあったように、「あさ」でも「びっくりぽんや!」があって、これもヒットの「鉄板要素」。まさに「あさ(朝)が来た!」という感じです。
−−春からの朝ドラは「とと姉ちゃん」です。
ペリー氏 生活総合誌「暮(くら)しの手帖(てちょう)」を創刊した大橋鎮子をモデルに描かれます。これも一代記もの。期待したいですね。
−−民放では「下町ロケット」(TBS系)が好評でした。
ペリー氏 「このドラマは応援せねばいかん」という気持ちになりましたよね。
碓井氏 さすがと思うのは「ドラマの三要素」すべてをうまく詰め込んでいたことです。物語の面白さ、キャスティング(配役)がよかった。演出でも、登場人物のアップから、3000人の社員の整列という壮大なシーンまで画面にすきがなかった。「きちんとドラマをつくれば、視聴者は見てくれる」と証明してくれました。今年も手の込んだドラマを見たい。
−−今年ブレークしそうな若手の俳優はいますか?
ペリー氏 男性では菅田(すだ)将暉さん。昨年5〜8月放映の「ちゃんぽん食べたか」(NHK)ではさだまさしさんの青年期をうまく演じていて好感が持てました。映画「ピンクとグレー」が9日に公開されますが、今後も出演作が続きます。
碓井氏 女性では昨年のポカリスエットのCMに出演した中条あやみさん。うかがい知れない雰囲気があって、期待大です。2月公開予定の映画「ライチ☆光クラブ」ではヒロイン役で登場します。
−−大河ドラマは三谷幸喜さん脚本の「真田丸」です。
ペリー氏 試写会で初回を見たのですが、三谷さんの執念を感じました。三谷さんが大河を手がけるのは「新選組!」(04年)以来。数年前「今度大河に関われるなら真田をやりたい」とおっしゃっていたんです。
碓井氏 へえ。僕は信州の出身なので、非常に関心が高い。が、やはり池波正太郎さん原作のドラマ「真田太平記」(NHK、85〜86年)のイメージが刷り込まれています。比べる必要はないとわかっているのですが……。三谷さん的なギャグより、男たちの骨太なドラマを見せてほしい。
ペリー氏 試写会を見た私のイチ押しは、昌幸(幸村の父)役の草刈正雄さん! 「真田太平記」で幸村を熱演していました。このドラマで昌幸役だった丹波哲郎さんが乗り移ったみたい。視線をクールにすーっと動かす所作とか。もう、感激。
碓井氏 それは楽しみです!
−−音楽界はどうでしょう。昨年末の紅白歌合戦は視聴率が低迷しましたが。
碓井氏 かつては「1年を振り返る音楽番組」でしたが、昨年は「ディズニーから番組宣伝まで何でもありの音楽バラエティー番組」になってしまった。音楽番組として何をしたいのかわからない。今年1年かけて紅白のありかたを考え直してほしい。以前のような午後9時スタートの2時間45分番組で十分な気もします。
−−懐メロが目立ちました。今年ヒットする兆しはありましたか。
ペリー氏 目玉が乏しくサプライズも少なかったのは残念でしたが、AKB48は既に国民的歌手になった感じがしました。E−girls、初出場の乃木坂46もそうですが、数多くの若い女性たちが歌って踊る路線は今年も続くのでしょう。お母さん的視点ですが、好感が持てますから。
碓井氏 アニメ番組「ラブライブ!」の声優で結成したμ’s(ミューズ)も女性グループですが、最近の音楽界ではアニメソングの存在が大きいと改めて感じました。
ペリー氏 演歌からは2人が初出場しました。三山ひろしさんは、多くの苦労を乗り越えているので歌に味がありました。山内恵介さんも新鮮でした。今年は演歌の盛り上がりに期待したいですね。
−−バラエティー番組の勢いは変わりませんか。
ペリー氏 昨年は「マツコ(・デラックス)時代」と言ってもいいくらいでした。
碓井氏 マツコさんには知性と品性を感じるし、確かに面白い。視聴者にとっては「この番組を見て損はしない」という最低保証があります。でも制作側がタレントの個性にばかり頼る姿勢はいかがなものでしょうか。
ペリー氏 先日、浅草の劇場を中心に活動している芸人さんたちを紹介する番組を見ました。普段テレビでは見ない方々ですけど、とても面白くて。今年は、こういう人たちが出てくるバラエティー番組がもっとあってもいい。
碓井氏 全く同感ですね。今年はタレント力だけではなく、制作側の番組構成力がより問われると思います。
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ぺりー・おぎの
1962年愛知県生まれ。時代劇の主題歌を集めたCD「ちょんまげ天国」をプロデュースするなど、時代劇をこよなく愛す。著書に「ちょんまげだけが人生さ」「バトル式歴史偉人伝」など。
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うすい・ひろよし
1955年長野県生まれ。慶応大卒。テレビ制作会社のプロデューサー、東京工科大教授などを経て現職。新聞コラムでの辛口論評で知られる。著書に「テレビの教科書」など。
(毎日新聞 2016.01.06)
撮影:内藤絵美(毎日新聞)