北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、1月に始まった今期連続ドラマについて書きました。
冬ドラマ多彩に
笑いがスパイス「真田丸」
NHK大河ドラマ「真田丸」が好調な滑り出しを見せている。主人公(堺雅人)は誰もが知る真田信繁(幸村)だ。信長、秀吉、家康など大物たちが激突した時代、信州の小さな一族が渾身の力と知恵で生き抜いていく。昨年のヒット作「下町ロケット」と同様、判官びいきの日本人の感性に響く物語だ。
注目は、「新選組!」以来12年ぶりとなる三谷幸喜の脚本である。笑いを得意とする三谷の“やり過ぎ”を心配したが、スパイスとしてのユーモアとなっていて安心した。たとえば、信繁の父・真田昌幸(草刈正雄)が一族郎党を前にして、「武田が滅ぶことはない」と断言。その直後、信繁と兄の信幸(大泉洋)には、「武田は滅びるぞ」と平気で言う。昌幸の一筋縄ではいかない人柄が愉快だ。
この草刈をはじめ役者陣も充実している。堺は、一見茫洋としていながら戦略家との片鱗も見せる信繁を自在に演じている。大泉も信繁とは対照的な性格の兄を好演。また、すでに自害したが、武田勝頼の平岳大が強い存在感を示した。さらに複雑な時代背景をコンピュータグラフィックス(CG)などで分かりやすく説明する工夫も評価したい。
民放にも見るべきものがある。「わたしを離さないで」(TBS-HBC)は、日系イギリス人作家、カズオ・イシグロの小説に挑んだ野心作だ。主人公(綾瀬はるか)は、仲間と共に世間から隔離された施設で育った。図画の授業が重視され、頻繁に健康診断が行われる日々。ある時、彼らは自分たちが負っている「特別な使命」を知らされる。舞台はイギリスから日本に移されたが、静謐で謎に満ちた物語の雰囲気は変わらない。「生きるとは何か」という重いテーマは万人向けではないかもしれないが、ドラマの質は上々だ。
次に「ヒガンバナ~警視庁捜査七課~」(日本テレビ-STV)を挙げたい。事件現場に残る「強い感情」にシンクロ(同期)する女性刑事(堀北真希)という設定と、大地真央、壇れい、YOUなど女優陣の競演が目を引く。だが、それ以上に興味深いのは、動画での犯罪予告、スマートフォンによるいじめ、そしてカリスマブロガーの深層など、毎回のストーリーに“ネット社会の闇”を織り込んでいることだ。時代の合わせ鏡としてのドラマという意味で意欲的な1本といえる。
前回「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 大晦日年越しスペシャル」の副題の表記に誤りがありました。正しくは「絶対に笑ってはいけない名探偵24時」です。訂正します。
(北海道新聞 2016年02月01日)