「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
徳山喜雄 『安倍晋三「迷言」録~政権・メディア・世論の攻防』
平凡社新書 842円
「放っておいていいの?」「構わない。彼女、ああいうキャラだから」という会話を耳にした。キャンパスですれ違った女子学生たちだ。“彼女”が何をしたのか知らないが、「キャラだから」で見過ごせるなら、まあ、大丈夫なのだろう。
しかし、これが一国の首相となるとそうもいかない。「議論は深まった」「私は総理大臣なんですから」「早く質問しろよ!」など迷言の山だ。著者が“アベ流言葉”の特徴だという、「断定口調」「レトリック」「感情語」の3点に納得すると同時に、“キャラ”として放置しておくことの危うさを強く感じた。何しろ政治は言葉なのだから。
安倍首相が「積極的平和主義」と言い出した時、本書にも登場する、ジョージ・オーウエルの小説『1984年』を思った。物語の舞台となる全体主義国家が掲げる、「戦争は平和だ」「自由は屈従だ」「無知は力だ」のスローガン。平和のために戦争ができる国にしたのは、まさに「戦争は平和」の体現化である。
本書は文字通りの首相迷言集ではない。発する言葉を目に見える“症状”とするなら、それが伝える “病状”はいかなるものなのか。著者は隠された“病巣”の指摘も含め、主治医のごとく鋭い診断を下していく。
しかも“患者”は首相だけではない。暴言を繰り返す政治家たち、政府広報化するマスメディアにもメスを入れていく。「無知は力」とならないための一冊だ。
佐藤建寿 『奇界紀行』
角川書店 1944円
奇妙な風景、奇妙な人たちを求めて世界を旅する。それが奇界紀行だ。写真集『奇界遺産』で注目され、テレビ番組『クレイジージャーニー』(TBS系)でも話題の著者。アフリカの呪術師からチェルノブイリの廃墟まで、現地現物主義の破天荒な旅が続く。
石田英敬 『大人のためのメディア論講義』
ちくま新書 886円
記号論・メディア論が専門の東大教授による特別講義である。人間の心とスマホなどメディア装置の関係。記号論から見るメディアと文字の問題。資本主義と文化産業の行方。さらにデジタル・メディア革命がもたらしたもの。“一億総スマホ化社会”を解読する。
(週刊新潮 2016.02.25号)