北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、NHK朝ドラ「あさが来た」を取り上げました。
「あさが来た」が支持された理由
大阪商人の姿 伸び伸びと
NHKの連続テレビ小説「あさが来た」が最終コーナーに差しかかった。スタート時から平均視聴率が連続してほぼ20%以上というヒット作である。あらためて、このドラマが高い支持を受けた理由を探ってみた。
ポイントは三つある。まず、主人公の白岡あさ(波瑠)が実在の人物をモデルとしていたことだ。“明治の女傑”といわれた実業家、広岡浅子である。京都の豪商の家に生まれ、大阪に嫁いだ後は炭鉱、銀行、生命保険などの事業を起こし、日本で初めてとなる女子大学校(現在の日本女子大学)の設立にも携わった。実話をベースにしているために物語の骨格がしっかりしており、安心して見ていられた。“女性一代記ドラマ”として成立するだけの実質が浅子にあったからだ。
次に、時代設定が幕末から明治という大激動期である点も有効に働いた。現代にも明日が見えにくい閉塞(へいそく)感が漂っているが、今とは比べものにならないほどのパラダイムシフト(社会構造の大転換)があった時代を、一人の女性がどう生き抜いたか。視聴者は興味をもって見続けることができた。
さらに、舞台が関西だったことにも注目したい。幕末維新ものの多くは、江戸を舞台にすると武家中心の話になってしまうが、しきたりに縛られてあまり面白くない。このドラマでは大阪の商人たちが伸び伸びと活躍する様子が新鮮だった。
三つ目は、ヒロインを支える魅力的な登場人物たちだ。特に大きかったのが、姉のはつ(宮崎あおい)である。性格も生き方も異なる姉の存在が、このドラマにどれだけの奥行きを与えてくれたことか。「花子とアン」でも成功した、いわゆる“ダブルヒロイン”構造の踏襲だが、そこに宮崎あおいという芸達者を置いたことで、視聴者は2つの人生を比較しながら見守ることになった。
もう一人が、あさの夫・新次郎(玉木宏、好演)だ。この時代の男としては珍しく、「女性はこうでなくてはならない」というステレオタイプな女性観の持ち主ではない。あさが旧来の女性の生き方からはみ出して、思い切り活動できたのも新次郎のおかげだろう。加えて、飄々(ひょうひょう)とした新次郎と対比させる形で近代大阪経済の父・五代友厚(ディーン・フジオカ)を置いたことも功を奏した。
朝ドラの“実録路線”は4月からも続く。「とと姉ちゃん」は、雑誌「暮しの手帖」を生み出した大橋鎭(しず)子と名編集者・花森安治がモデルとなっている。放送開始が楽しみだ。
(北海道新聞「碓井広義の放送時評」 2016年03月07日)