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東京新聞で、NHK「朝ドラ」の人気について解説

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東京新聞に、NHK「朝ドラ」人気についての特集記事が掲載されました。

「考える広場」というページで、ドラマプロデューサーの小林由紀子さん、タレントの横沢夏子さんと共に、解説しています。


きょうも「朝ドラ」 人気のヒミツ
NHKのドラマ「連続テレビ小説」が人気を呼んでいる。ドラマ全体が視聴率を落とす中、なぜ「朝ドラ」は好調なのか。半世紀を超えるシリーズで描かれてきた日本の女性像に変化は。

◆女性像もっと冒険を 
 ドラマプロデューサー・小林由紀子さん

 「朝ドラ」の制作はヒロイン像を決めるところから始まります。どんな女性がアピールするか。それには今がどういう時代かという分析が欠かせません。

 例えば「おしん」(一九八三年度)の時は、臨時行政調査会会長だった土光(敏夫)さんの夕食のおかずがメザシということが話題になっていた。高度経済成長後の飽食の時代で、メザシには「日本人は浮かれていないか」という批判が込められていたと思います。そこで出てきたのが小作農家の娘という人物です。明治の近代化から戦争、復興を経て飽食に至る日本の歴史を生きた一人の女性の流転を描こうと。

 彼女は最終的にスーパーのオーナーになりますが、会社が倒産寸前という設定が初回から出てきます。高度成長の崩壊がオチであり、メザシにつながっている。おしんは大根めしを食べてかわいそうというイメージがありますが、実は問題提起のドラマでもあったんです。

 朝ドラが始まって五十五年。初期は昭和的な家族の物語で良妻賢母的なヒロインが多かった。「水色の時」(七五年度前半)で初めて現代が舞台に。ここから職業を目指す女性が増える。女性進出の時代を反映していました。二〇〇〇年代は現代物でいろいろ挑戦しましたが、あまり受けなかった。女性の生き方が多様化して一つにくくれなくなったからでしょう。そのため、「ゲゲゲの女房」(一〇年度前半)あたりから年代記物に回帰しました。

 最近の「朝ドラ」は保守的になっているのでは。年代記物をやること自体がそうだし、ある種の日本女性のあるべき姿を押し付けているように感じます。「あさが来た」(一五年度後半)で、ヒロインが夫を「旦那さま」と呼び続けていたのがとても気になりました。それも今の時代の映し鏡ということでしょうか。

 もともと朝ドラのヒロインは、みんないい子なんです。一生懸命で前向きで、少しおてんば。でも、男を立てるかわいい女。私は女性のダークな部分も描きたいと頑張りましたが、男性スタッフが多い現場では「かわいくない」と反対されて。政府が「一億総活躍社会」とか言って「女も働け」という時代でしょ。働く女性のすてきなロールモデルを作るために、もっと冒険してほしいと思います。(聞き手・大森雅弥)

 <こばやし・ゆきこ>1940年、東京都生まれ。60年にNHK入局。「おしん」「はね駒」「たけしくん、ハイ!」などを制作。92年に退職。著書に『ドラマを愛した女のドラマ』『あま噛み』など。


◆共感「人生の教科書」 
 お笑いタレント・横沢夏子さん

 「朝ドラ」の大ファンです。リアルタイムでは、「ひまわり」(一九九六年度前半)から全部見ています。再放送は「おしん」(八三年度)からの大半。見始めたのは六歳のころです。母親の影響ですね。一番早いBSの午前七時台の放送を一緒に見て「きょうも頑張ろう。じゃあ行ってきまーす」という感じでした。

 影響力はありますね。女性の人生を追っかけていて、私が歩んでいない人生でも、「歩んでいる」と思えちゃう。ちゃんと生と死も扱う。身近な人が亡くなるとこんな気持ちになるんだと、泣きながら学校へ行っていました。でもそういう重いのって、水曜日や木曜日。で、金曜日とか土曜日は明るくなります。母と「あした土曜日だからね」とか話していました。

 私にとっての最高傑作は「ちゅらさん」(二〇〇一年度前半)です。温かさがあって、エンジンがかかる感じ。沖縄の方言をまねしたり。それと、母親と対立しながら落語家を目指す女性を描いた「ちりとてちん」(〇七年度後半)も好きです。

 「ちりとてちん」のヒロインは「お母さんみたいな人生を送りたくない」と言って落語の世界に飛び込むんですが、最後は出産して、お母さんとなって生きる。母は「昔は私もそう(ヒロインと同じ気持ち)だったわよ」って泣いていました。朝ドラは、「人生の教科書」です。

 昭和の朝ドラは、戦争と戦う女性のたくましさを描きましたが、二十一世紀の朝ドラは、社会と戦う女性のたくましさが出ていますね。「まんてん」(〇二年度後半)では、ヒロインが宇宙飛行士になっちゃうんですよ。昔じゃ全然考えられないことですよね。

 斬新だったのは「あまちゃん」(一三年度前半)。夜見てもいいぐらい。どす黒く、濃密で、面白かった。平成の社会の縮図をちょっとばかにした感じで見せてくれた。スナックでのシーンでも笑いがたくさん。朝ドラって、笑いはそんなに必要なかったのに。

 朝ドラは、どれだけ「朝」を見せるか。みんなで朝ご飯を食べる風景。一人で見ていても、一緒に食べている気分になる。それと、晴れている田舎の風景とか。あとはヒロインの人柄を愛せるか。今の「とと姉ちゃん」役、やってみたいですね。引き込まれています。(聞き手・小野木昌弘)

 <よこさわ・なつこ> 1990年、新潟県生まれ。よしもとクリエイティブ・エージェンシー所属。一人コント「ちょっとイラっとくる女」など、周囲の女性を観察して生み出したネタで大人気。


◆半年続く「隣人」感覚 
 上智大教授・碓井広義さん

 今や「朝ドラ」はブランドとして確立されました。良質で面白いドラマが見られるという安心感に加え、半年続くというのが大きい。民放のドラマが三カ月、十回程度で終わってしまうのに対し、朝ドラは視聴者にとって半年間付き合い続ける隣人のような存在になっています。

 朝ドラには王道というべき三つの要素があります。女性が主人公の一代記ということ。職業ドラマであること。自立へと向かう成長物語であること。この三つがそろった連ドラは民放ではなかなか見られない。

 近年は、新たな勝利のパターンが加わりました。大きな転機は、漫画家水木しげるさんの妻をモデルにした「ゲゲゲの女房」(二〇一〇年度前半)です。ヒロイン像が魅力的で、それ以降、“過去に実在した人物”を取り上げる作品が増えました。好評だった「カーネーション」(一一年度後半)、「花子とアン」(一四年度前半)、「マッサン」(同後半)。現在放映中の「とと姉ちゃん」もそうです。

 いずれもヒロインのモデルは濃厚な人生を送った女性たち。すなわち半年間付き合うかいのある人です。戦前から戦後の昭和を舞台にした作品が多いのも、現代では希薄になってしまった、日本人の暮らしの原点みたいなものに視聴者が共感を覚えるからだと思います。

 それは裏を返すと、“現代の架空のヒロイン”を魅力的に描けていないということでもある。「純と愛」(一二年度後半)や「まれ」(一五年度前半)では、ホテルウーマンやパティシエを目指していたはずの主人公が迷走した。実在の人物に頼るのは、脚本家や制作陣の想像力が弱っているせいかもしれません。

 では現代の若い女性を主人公に、波瀾(はらん)万丈の物語が構築できないかというと、そんなことはない。「あまちゃん」(一三年度前半)はできたんです。しかも王道の一代記でなく、わずか数年間の物語で、あれだけ笑えて泣けて応援したくなるドラマが描けた。現実の東日本大震災をどう取り込むかという難題にも果敢に挑戦した。まさに五十年に一度の傑作と思います。

 それを超えるのは並大抵のことではないですが、NHKにはぜひ架空の人物の物語でも視聴者を笑って泣かせてほしい。かつて向田邦子さんや倉本聡さんのドラマがそうだったように。人間の想像力は無限大なのですから。(聞き手・樋口薫)

 <うすい・ひろよし>1955年、長野県生まれ。慶応大法学部卒。テレビマンユニオンに参加し、20年にわたり番組制作に携わる。その後、慶大助教授などを経て現職。専門はメディア論。

(東京新聞 2016.06.18)

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