「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
吉野孝雄 『外骨戦中日記』
河出書房新社 2160円
宮武外骨は、明治・大正期に政治家や官僚などの権力だけでなく、マスメディアに対しても厳しい批判をあびせたジャーナリストだ。外骨の甥である著者は、太平洋戦争の最中に書かれた日記を発見し、読み解いていく。かつての戦争前夜に似た現代に、外骨が甦る。
ピーター・バラカン
『ロックの英詞を読む~世界を変える歌』
集英社インターナショナル 1620円
音楽講座にして英語講座という著者ならではの一冊だ。テキストとして、イラク戦争に従軍する兵士の心情を歌った、トム・ウェイツの「デイ・アフター・トゥモロウ」など22曲が並ぶ。「使える日常会話表現」「通じる発音のヒント」などのコーナーも嬉しい。
(週刊新潮 2016.07.07号)
日本文藝家協会:編
『短篇ベストコレクション 現代の小説2016』
徳間文庫 821円
着想と技巧を味わうのが短篇小説の醍醐味だ。雪の街を舞台に追い詰められた男の心情を描く、佐々木譲「降るがいい」。新津きよみ「寿命」では、一人で我が子を育てた母親の人生が急浮上する。他に髙村薫、大沢在昌、荻原浩など全16作が並ぶ文庫オリジナルだ。
磔川全次:編 『在野学の冒険』
批評社 1836円
大学など研究機関に所属せず、「在野」にあって自らのテーマを探究する人たちがいる。その思想が在野そのものだった柳田国男。吉本隆明の在野的精神。また、山本義隆は近代科学の始まりを、在野の職人たちの記録だとする。独学から在野学へのギアチェンジの書だ。
野坂昭如 『男の詫び状』
文藝春秋 1728円
書かれたのは野坂の生前だが、これは往復書簡という名の“弔辞”と“遺書”である。瀬戸内寂聴は自分を「や、さ、し、い」と評してくれたことを感謝し、野坂は瀬戸内の行動力に敬意を表す。登場する37人が皆、各自の思い出と共に愛すべき作家を惜しんでいる。
(週刊新潮 2016.07.14号)