「週刊新潮」の書評欄に書いたのは、以下の本です。
矢崎泰久:編
『永六輔の伝言~僕が愛した「芸と反骨」』
集英社新書 799円
今年7月7日、永六輔が83歳で亡くなった。草創期からテレビに携わり、放送作家、作詞家、タレント、また作家としても活躍した異能の人だ。旅が日常で、行った先で見たこと、聞いたこと、出会った人のことを電波と活字で伝え続けた。60歳で上梓した『大往生』(岩波新書)は大ベストセラーとなる。そこには有名・無名を問わず、永の気持ちを揺り動かした、他者の言葉と人生が並んでいた。
矢崎泰久:編『永六輔の伝言~僕が愛した「芸と反骨」』(集英社新書)は、元『話の特集』編集長である矢崎が、永に”成り代わって”語る自分史であり、有名人たちとの交友録である。
たとえば昭和22年、14歳の永は、まだ焼け跡の残る浅草で、鉄くずなどを集めて生計を立てていた渥美清を知る。やがてコメディアンとなった渥美と、永が作・構成を手がけた『夢であいましょう』(NHK)で一緒に仕事をすることになる。人気者になっても、ひけらかすことのない渥美はまた、最期まで義理堅い人だった。永は生前、渥美のことを書いたことがない。それは親しさの証しだ。
他に登場するのは坂本九、三波春夫、淡谷のり子、やなせたかし、井上ひさし。「中年御三家」を組んだ小沢昭一と野坂昭如。そして作曲家の中村八大もいる。中でも貴重なのが三木鶏郎をめぐる回想だ。戦後、その社会風刺がGHQや政府から煙たがられた、伝説のラジオ番組『日曜娯楽版』(NHK)を作った男の仕事ぶりが活写されている。
加藤陽子
『戦争まで~歴史を決めた交渉と日本の失敗』
朝日出版社 1836円
評判を呼んだ『それでも、日本人は「戦争」を選んだ』の姉妹編。本書では3つの歴史的な「交渉」と「選択」を検証する。満州事変とリットン報告書、日独伊三国軍事同盟条約、そして太平洋戦争と日米交渉だ。平易な語り口と立体的視点で戦争の本質に迫る好著。
石光 勝
『老いの風景~物語で経験する「生老病死」』
中央公論新社 1836円
現在82歳の著者はテレビ東京の元常務取締役。自身の老いと対峙しながら、文学や映画を通じて生老病死と愛を探っていく。テキストは深沢七郎『楢山節考』、丹羽文雄『厭がらせの年齢』、ヘミングウエイ『老人と海』、そして山田洋次監督の『東京家族』などだ。
山田 薫
『気がつけば被告?イライラ社会の法律トラブル』
日経ビジネス人文庫 842円
訴訟の当事者となる自分を想像できるだろうか。多くの人は小説やドラマの一場面だと思っているはずだ。しかし本書を読めば被告席は遠くないことがわかる。電車内でのケンカ、スキー場での接触事故、中古マンションの売買など、豊富な事例で身を守る術(すべ)を知る。
(週刊新潮 2016.10.06号)