週刊朝日で、ドラマ「砂の塔~知りすぎた隣人」(TBS系)、そして「黒い十人の女」(日本テレビ系)について解説しました。
盛り上がって後半戦へ 見どころ満載
秋のドラマ実況中継
この秋のドラマは実は豊作ぞろい。視聴率争いでトップを独走中なのは、第4シリーズを迎えた米倉涼子主演の「ドクターX~外科医・大門未知子~」(テレビ朝日系)だが、数字には表れない見どころや制作側の秘話を知れば、もっと楽しめるはず。後半戦に向け、チェックすべきポイントをお伝えする。
石原さとみ主演の「地味にスゴイ!校閲ガール・河野悦子」(日本テレビ系)は、出版社の校閲室という舞台設定が新しい。
「小説の映像化でデフォルメは仕方ないが、校閲なめるな」といった厳しい意見があったようなので、弊社の出版校閲部の藤井広基部長に聞いてみた。アンチな意見どころか「うちの校閲ガールたちにも大ウケ」と評判は上々。さらに続ける。
「ドラマで石原さとみがしていたように、原稿の事実確認のために(休日に)出かける校閲者も実際にいたし、社交的な人が校閲力を存分に発揮できるというのは、ある意味、正しい」
菅野美穂の産後本格復帰作なのにジリ貧なのが「砂の塔~知りすぎた隣人」(TBS系)。共演の松嶋菜々子は最近は視聴率が取れないと言われる始末。
「松嶋さんを戦犯扱いするのはお門違い。松嶋さんは女優としてすごく上手なわけではなく、それを逆手にとったのが、言葉少なで、表情がないミステリアスな『家政婦のミタ』の役で、制作側の勝利だった。そういう意味では今回も役柄としては合っています」(上智大学文学部の碓井広義教授[メディア論])
菅野に関しても、テレビウォッチャーの吉田潮さんはこんな評価だ。
「復帰後すぐは不健康な役が多かったが、今回は久々に元気な菅野ちゃん。へんな正義感を振りかざすよりもいじめられる役がやっぱり合っていると再確認した」
では敗因はどこに?
「タワーマンションの階層格差と幼児失踪というネタのマッチングが悪い。サスペンスを見たい人にもドロドロを見たい人にも中途半端」(碓井教授)
吉田さんも設定そのものの難しさを指摘する。
「タワマンカーストは5年前にフジが『名前をなくした女神』でセンセーショナルに描いて以来、手垢がついている。新しさを生むのに苦労しています」
吉田さんのイチ押しは、NHK土曜ドラマ「スニッファー嗅覚捜査官」だ。
「化学物質の臭いまで嗅ぎ分けるコンサル役・阿部寛と母と2人暮らしの刑事役・香川照之。最初は豪華すぎると思ったが、画面も設定も計算されて非常に見やすいし、2人とも問題を抱えていて人間くさい。格好よくないのが魅力です」
深夜枠で話題を集めるのが「黒い十人の女」(日本テレビ系)。55年前の同名の映画(市川崑監督)をバカリズム脚本でリメイクした。船越英一郎扮するテレビ局のプロデューサーが9人の女と不倫。女同士のバトルが半端ないのだ。
「日本ではブラックコメディーは難しいが、バカリズムの脚本がうまく、見た人は得をするめっけもんのドラマ。トリンドル玲奈が『ババア』を連呼し、水野美紀が針の振り切れた大仰な演技をし、成海璃子が佐野ひなこをぶっとばす。女って怖いと思ってもよし、船越やるなと思ってもよし、チャチャを入れながら笑って見ればいい」(碓井教授)
船越の実際の妻(松居一代)を思い浮かべれば震え上がるかも? 秋の夜長はぜひあったかくして、ドラマを堪能してほしい。
(週刊朝日 2016年11月18日号)