東京新聞の1面に、北大の中島岳志さんの著作をめぐる記事が掲載されていました。
NTT出版から出る予定だった本『リベラル保守』。
ところが突然、橋下徹・大阪市長を批判した文章の削除を求められ、それを拒否したら出版中止となった、という話です。
理由は、「特定の個人や団体の利益になる本も、不利益になる本も出さない」ことにしているからだそうです。
とはいえ、やはり「橋下徹・大阪市長がらみ」ってところがポイントでしょう。
ちょっと、いや〜な感じが漂います。
その後、中島さんのこの本は、『「リベラル保守」宣言』として、新潮社から発行されました。
エライぞ、新潮社(笑)。
私も読みましたが、問題とされる章が、特別問題だとは思いませんでした。
それよりも、NTT出版側が、この本を出さないことで、何から、何を守ろうとしたのか。
また、こういう動きが他にも出版界の中で起きているのではないか。
いや、出版界だけでなく、メディア全体の中で進んでいたりしないか。
そのあたりが気になりました。
橋下氏を批判 出版中止
中島氏評論「権力への過剰忖度」
政治学者の中島岳志(たけし)・北海道大准教授の社会評論が、今年二月の発売予定日を目前に出版中止になった。日本維新の会共同代表の橋下徹・大阪市長への批判を含むことを出版元のNTT出版が問題視し、削除を求めたのが発端だった。中島氏は削除を拒否し、その後、本は六月末に新潮社から刊行された。異例の出版中止の裏に何があったのか。 (森本智之)
この本は「『リベラル保守』宣言」。中島氏が数年前から言論誌「表現者」に連載している内容を見た同出版が「本にしたい」と申し出た。
中島氏によると、昨秋から出版に向け作業を始めた。ところが、ゲラの校正を進めていた昨年末、編集者から「第三章が社内で問題になっている」「親会社がNTTという公共企業なので、特定の政党や政治家への批判は問題」と伝えられた。
問題視されたのは、「橋下徹・日本維新の会への懐疑」と題した第三章の十五ページほど。中島氏は橋下氏に批判的な若手論客として知られ、本の中で「独断的な改革」「自らの正義で他者を断罪する」と指摘していた。
出版まで三週間を切った今年二月六日、NTT出版の幹部に呼び出され「第三章全文を削除してほしい」と求められた。中島氏が断ると、「残念です」とその場で出版中止が決まったという。
中島氏は「急に問題視されたので時期的に『週刊朝日』の問題が影響していると思った」と話す。当時、橋下氏をめぐる同誌の連載が不適切な記述のために中止となったことを受け、出版元の朝日新聞出版や親会社の朝日新聞がたたかれていた。中島氏は「権力への過剰な忖度(そんたく)だ」と批判。新潮社版の「あとがき」で、経緯を詳述した。
これに対し、NTT出版の斎藤博出版本部長は「特定の個人や団体の利益になる本も、不利益になる本も出さないことにしており、週刊朝日の問題とは関係ない」と説明。「親会社の意向が影響することもない。社として本の内容をきちんと把握できていなかったことが対応遅れの原因」と話し、橋下氏への配慮を否定した。
だが、同社は今年一月、佐伯啓思(けいし)・京都大教授の「文明的野蛮の時代」を出版。その中には、民主党政権を振り返り「友愛などという言葉でお茶を濁されては事態は一歩も進まない」「『政治主導』どころではない」などと、厳しい批判を連ねた箇所がある。
相手次第で方針が違うようにもみえるが、斎藤氏は「(佐伯氏の本では民主党を)引き合いに出しているだけで論点は別」と説明する。しかし、中島氏は「これでは自由な言論活動などできない」と納得していない。
中島氏はかつて、ツイッター上で橋下氏から「役立たず」などと批判を受けた。さらに橋下氏の支持者らにより自身のツイッターが炎上。「自分の主張と違う意見への寛容度が下がっている。ネット上では特にその傾向が顕著で、すぐに大バッシングにつながる。自由に自分の意見を言いにくい時代になってきた」と懸念する。
「参院選でも自民党が大勝した。橋下氏の例を持ち出すまでもないが、権力が一極集中すれば、反する主張は言いにくくなり、過剰忖度や自己規制の働く余地は大きくなる」
<週刊朝日の連載記事問題>
週刊朝日が昨年10月に掲載した橋下徹・大阪市長をめぐる連載の初回記事に、橋下氏の出自をめぐる不適切な記述があった。橋下氏が激しく抗議し、出版元の朝日新聞出版は謝罪の上、連載を中止。当時の社長が引責辞任した。
(東京新聞 2013.08.18)