猛暑だ、猛暑だと言っているうちに、このごろ、陽ざしや風が、少し変わってきたように思います。
季節は確実に動いているんですね。
この夏の終戦特番も、一区切りという感じ。
今週、日刊ゲンダイの連載「TV見るべきものは!!」で取り上げたのは、NHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」です。
NHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」
「人間」火野葦平が見えた
日中戦争から太平洋戦争にかけて、百人以上の作家が戦場に送り込まれた。いわゆる従軍作家だ。林芙美子、吉川英治、丹羽文雄、石川達三、石川洋次郎、そして火野葦平。
「麦と兵隊」などで知られる火野を軸に、作家と軍の関係を探ったのが、14日に放送されたNHKスペシャル「従軍作家たちの戦争」である。
まず人物への迫り方と距離の取り方に感心した。火野や陸軍の馬淵逸雄中佐(メディア戦略担当)の内面にまで踏み込みつつ、あくまでも客観情報に徹している。
また戦争によって栄誉を受けた火野(後に自殺)をいたずらに貶(おとし)めることも、かばうこともしないのだ。
しかし、親族に向けて密かに伝えた戦場の現実、戦後に修正を加えた肉筆原稿の存在、兵士の言葉を借りた自戒の念などを丁寧に構成することで、「従軍作家・火野」ではなく「人間・火野葦平」の姿が見えてきた。
ナレーションは俳優の西島秀俊。番組では登場人物に関する心象コメントが最小限に抑えられており、全体の印象が無機質になる可能性もあった。
そこを救っていたのが、人間味を感じさせる西島の声だ。伝えるのではなく、聴かせることで視聴者に考える余地を残した。
実は、見終わって火野以上に印象に残ったのが菊地寛だ。軍のメディア戦略と作家の大政翼賛運動のクロスポイントにいた男。
次回作で、ぜひ。
(日刊ゲンダイ 2013.08.20)