「週刊新潮」に、以下の書評を寄稿しました。
木俣 冬 『みんなの朝ドラ』
講談社現代新書 907円
NHK連続テレビ小説、通称「朝ドラ」の傑作『あまちゃん』が放送されたのは2013年度前期だ。平均視聴率は20・6%。放送当時、それまでの10年間では堀北真希主演『梅ちゃん先生』の20・7%に次ぐ高い数字となった。
しかも反響はそれだけではない。新聞や雑誌で何度も特集が組まれ、ネットでも連日話題となった。関連CDがヒットし、DVDの予約は通常の10倍。また、『あまちゃん』の放送終了後、寂しさで落ち込む人が続出すると言われ、「あまロス症候群」なる言葉まで生まれた。
では、なぜ『あまちゃん』は一種の社会現象ともいえる広がりをみせたのか。木俣冬『みんなの朝ドラ』によれば、それは「総合力」の成果だ。宮藤官九郎によるポップな脚本。ヒロインの能年玲奈を囲むように配された、小泉今日子や薬師丸ひろ子など80年代アイドルの起用。さらに「影武者」という異色の設定にも丁寧な分析が為される。
本書では、ほかに『ごちそうさん』『花子とアン』『あさが来た』『とと姉ちゃん』などが語られるが、圧巻は著者が「朝ドラを超えた朝ドラ」と絶賛する『カーネーション』だろう。何より「健全な朝ドラの世界に背徳感をもたらした」こと。またヒロインの夢物語ではなく、「現実」を描いた点も評価している。
朝ドラが女性だけのものから、まさに「みんなの朝ドラ」となっていくプロセスを明かしながら、その魅力を解読したのが本書だ。
勢古浩爾 『ひとりぼっちの辞典』
清流出版 1620円
ビアス「悪魔の辞典」ならぬ、警句に満ちた「老後の辞典」。いや、辞典形式の老後エッセイだ。たとえば【公園】の項には、「話し相手ができそうになったら、別の場所を探す」とある。“ひとり者のプロ”が到達した心境と美学と密かな快楽が綴られていく。
小路幸也 『風とにわか雨と花』
キノブックス 1620円
ある一家の物語だ。両親と12歳の娘と9歳の息子という一見普通の家族だった。ところが父が突然、家を出て専業作家になると宣言する。離婚を機に母は仕事に復帰。家庭崩壊、一家離散かと思いきや、4人それぞれの視点から親子や夫婦の新たな関係が見えてくる。
クリスティン・ヤノ:著、久美薫:訳
『なぜ世界中が、ハローキティを愛するのか?』
作品社 3888円
著者は「大衆文化における民族文化」を探る、日系人のハワイ大学教授だ。かつて「スヌーピーは犬だが、キティちゃんは猫ではない」ことを公表して、世界に衝撃を与えた。本書はキティ研究の集大成。「ジャパニーズ・キュート=クール」の謎が解明される。
(週刊新潮 2017年7月13日号)