北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、ドラマ下北沢ダイハード」と「香川照之の昆虫すごいぜ!」について書きました。
この夏の企画賞「下北沢ダイハード」
熱演賞は「昆虫すごいぜ!」の香川照之
「下北沢ダイハード」(テレビ東京―TVH)は、今期ドラマの“企画賞”だ。描かれるのは、演劇の街・下北沢を舞台にした「人生最悪の一日」。脚本は小劇場の人気劇作家11人による書き下ろし。いわば深夜に開催された「小劇場フェスティバル」である。
たとえば、「裸で誘拐された男」の脚本は演劇チーム「TAIYO MAGIC FILM」の西条みつとし。SM趣味の国会議員(神保悟志)が、女王様(柳ゆり菜)の命令で全裸のままトランクに詰め込まれる。しかも手違いのため、トランクが紛れ込んだのは「誘拐事件」の現場だった。「こんな姿で文春にでも出たらアウトだあ」とあせりまくる国会議員がおかしかった。
また「違法風俗店の男」の脚本・演出は、ユニット「男子はだまってなさいよ!」の細川徹だ。俳優の光石研がドラマの中で「俳優・光石研」を演じる仕掛け。公演前に入った風俗店で、警察の手入れに遭遇する。脳内をテレビ番組「実録 警察庁24時!」の映像が駆け巡った光石は、起死回生のアドリブ勝負に出る。
劇団「東京サンシャインボーイズ」の三谷幸喜、劇団「大人計画」の工藤官九郎など、演劇人であると同時に、ドラマの優れた書き手でもある人たちがいる。今回参集した11人の「劇作家」の中から、第2、第3の三谷幸喜やクドカンが出てくるかもしれない。
この夏の“熱演賞”は、不定期放送のEテレ「香川照之の昆虫すごいぜ!」である。元・昆虫少年の香川がカマキリの着ぐるみ(その監修も香川自身)を着用して「カマキリ先生」となり、原っぱや河川敷で昆虫採集にまい進する。子供向け番組とは思えない、想像を超えるインパクトがあった。
以前の「モンシロチョウ」編でも、まるで座頭市の仕込み杖のような速さで捕虫網を切り
返し、次々と捕獲していった香川。チョウの腹を指でそっと押さえ、「この伝わるチカラ
がたまらない」と子供のように感動していた。香川、実にいいヤツである。
そして最新作のテーマは「タガメ」だ。きれいな水にしか生息しないにもかかわらず、小魚やカエルを食べる、どう猛なタガメ。香川はタガメを殺人犯に、自らをタガメ捜査一課長に見立て、全国の子供たちの助けを借りて大追跡を敢行する。
結局、4時間をかけて全長7センチの大物を「現行犯逮捕」した。最後は疲労で声も出ず、腰が痛いと正直に告白する51歳の名優。いいヤツな上に、すごいぜ!香川。
(北海道新聞 2017年09月05日)