毎日新聞のリレーコラム「週刊テレビ評」。
今回は、WOWOWのドラマ「プラージュ」 について書きました。
週刊テレビ評
WOWOW「プラージュ」
「訳あり」と「おかしみ」絶妙
この夏、最も見応えがあるドラマは何かと聞かれたら、WOWOW「プラージュ~訳ありばかりのシェアハウス~」(土曜午後10時)と答える。原作は「ストロベリーナイト」などで知られる誉田哲也の同名小説。主演は「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)で大ブレークした星野源だ。全5話の放送は今週末の9日に緊迫の最終回を迎える。
主人公は旅行代理店に勤めていた吉村貴生(星野)。酒に酔って、怪しい連中に覚醒剤を打たれてしまう。結局逮捕され、執行猶予付きとはいえ前科1犯に。会社はクビ。住む部屋も失った貴生を受け入れてくれたのが、物語の舞台となるシェアハウス「プラージュ」だ。確かに訳ありばかりが暮らしており、その「訳」こそがこのドラマのキモである。
オーナーの朝田潤子(石田ゆり子)は犯罪がらみで父親を亡くしている。高校時代に傷害致死事件を起こした小池美羽(仲里依紗)は、行きずりの男たちの相手をして稼いでいる。矢部紫織(中村ゆり)にはコカイン所持で逮捕歴がある。親切な弁当屋でアルバイトをしていたが、逃亡中の元カレが訪ねてきたことで店を辞めた。
古着屋で働いている中原通彦(渋川清彦)は恋人を守るため人を殺した過去を持つ。加藤友樹(スガシカオ)は殺人の罪で5年間服役し、現在は再審公判中。その加藤を題材に記事を書くため潜入取材を続けてきた、ライターの野口彰(真島秀和)も住人である。そこに加わったのが、思わぬことから「前科者」となった貴生だ。再就職しようと動いてみて、ハードルが高いことを痛感。今は潤子が営むカフェを手伝っている。
いずれも犯した罪は償っているものの、社会からはみ出してしまった者に対する世間の目は厳しく、普通に暮らすこと自体が難しい。「犯罪者は社会に受け入れられるのか」という重いテーマがこのドラマの根底にある。しかし単に重くて暗いわけではない。星野源ならではの“おかしみ”が絶妙の空気感を生んでいるからだ。
さらに石田ゆり子をはじめ芸達者がそろっており、それぞれが抱える葛藤と複雑な心理が、住人たちとの関係性の中で描かれていく。特に仲里依紗は、幼いころからの過酷な体験が原因で、自分の感情をうまく表現できない女性という難しい役を好演している。
タイトルのプラージュは「海辺」や「浜辺」という意味のフランス語。それは海と陸の境目ではあるが、どこか曖昧だ。思えば人間における「向こう側」と「こちら側」の境界線もまた、あるようでないのかもしれない。
(毎日新聞 2017年9月8日 東京夕刊)