テレビ東京系
浅田次郎ドラマスペシャル「琥珀」
濃密な情感こそ浅田ドラマの醍醐味だ
先週金曜の夜、浅田次郎ドラマスペシャル「琥珀」(テレビ東京系)が放送された。放火殺人事件の容疑者で25年間も逃亡を続けている男。そんな過去を知らないまま、男を好きになった人妻。2人が暮らす北陸の港町に、突然刑事が現れて……という物語だ。
殺人逃亡犯と刑事が出てくるとはいえ、派手なアクションも緊迫のサスペンスもない。また男と人妻による濡れ場があるわけでもない。しかし、この3人を寺尾聰(70)、鈴木京香(49)、西田敏行(69)が演じることで、見事な“大人のドラマ”となっていた。
脚本は朝ドラ「ひよっこ」が好調の岡田惠和だ。原作である浅田次郎の短編をベースにしながら、独自のイメージで物語世界を構築していた。寡黙だが実直な男は、なぜ妻と自宅を焼いたのか。明るく振る舞いながらもどこか影のある女は、どんな家庭を持っているのか。
さらに定年を数日後に迎えるはずの刑事は、何を思ってこの町にやってきたのか。岡田は彼らが抱える心の重荷をじっくりと丁寧に、そして優しい目で描いていく。
ラスト近く、男が営む喫茶店「琥珀」の中で、3人の会話が約15分間も続く場面がある。それは告白であり、謎解きであり、人が生きる上で大切なものを提示するクライマックスだった。岡田の脚本と寺尾・鈴木・西田の演技が生み出した濃密な情感こそ、浅田ドラマの醍醐味だ。
(日刊ゲンダイ 2017.09.20)