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Channel: 碓井広義ブログ
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朝ドラ「ひよっこ」は、なぜ名作と言える一本となったのか

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北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、先月末にゴールした朝ドラ「ひよっこ」を総括しました。


名作に育った「ひよっこ」
私たちの戦後史そのもの
先週末、NHK連続テレビ小説「ひよっこ」が幕を閉じた。開始直後は「主人公が地味だ」「話が進まない」といった声も聞こえたが、半年間で名作と言うべき一本となった。

その最大のポイントは、谷田部みね子(有村架純)というヒロインの設定にある。ここしばらく続いた実在の人物がモデルやモチーフの「実録路線」とは異なり、あくまでも架空の人物だ。

しかも、みね子は「とと姉ちゃん」の小橋常子のように雑誌を創刊したり、「べっぴんさん」の坂東すみれのように子供服メーカーを興したりはしなかった。

また実在の女性ではないから、人生の結末どころか、明日さえも見えない。まさに無名で、何者でもないみね子だが、家族や友だちを大切にしながら懸命に働き、明るく生きていた。そんな等身大のヒロインだからこそ、見る側は応援したくなったのだ。

さらに脇役たちが単なる脇役にとどまらず、それぞれ魅力的なキャラクターとして描かれていたことも、このドラマの長所だ。故郷・奥茨城の人たち。ラジオ工場で一緒に働いた「乙女寮」の仲間たち。赤坂の「すずふり亭」と「あかね荘」の面々。今もどこかで元気に暮していてほしい、愛すべき人々である。

次が時代設定だ。最終的に、このドラマは昭和39年から43年まで4年間の物語だった。まだ戦後の影を残し、暮らしも社会も緩やかだった昭和30年代。そして、この国が経済大国へと変貌していく40年代。

そのちょうど境目、東京オリンピックが開催された昭和39年から物語が始まったことも有効だった。私たち日本人が何を得て、その代わりに何を失ってきたのかを感じさせてくれたからだ。

同時に視聴者は「タイムトラベル(時間旅行)」も楽しめた。東京オリンピック、ビートルズの来日、テレビの普及とクイズ番組の隆盛、そしてツイッギーとミニスカートブームなど、同時代を生きた人には懐かしく、知らない世代には新鮮なエピソードが並んだ。

東京オリンピックの時に高校3年生だったみね子は、逆算すれば昭和21年生まれということになる。いわゆる戦後第一世代であり、この年に公布された「日本国憲法」と、いわば同期生だ。

憲法とみね子。戦後に誕生し、少しずつ成長しながら周囲を支え、また周囲に支えられてきた姿も、どこか重なるものがある。それだけに、今年71歳のみね子がどんな女性になっているのか、気になるのだ。無名のヒロインの歩みは、私たちの「戦後史」そのものだったのだから。

(北海道新聞 2017年10月03日)


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