【ZOOM】
過熱する不倫報道
放送時間2年前の6倍 視聴率に直結
渡辺謙さんに斉藤由貴さん、山尾志桜里前衆院議員など、今年に入って芸能人や政治家の不倫疑惑が相次いで報じられている。
不倫に関する話題に割かれるテレビ各局の放送時間は、2年前に比べて6倍以上と急増。不倫の2文字を目にする機会は劇的に増えた。不倫はなぜ多大な時間を割いて報道される国民的な関心事になったのだろうか。(三宅令)
◆ベッキーさん後…
メディアコンサルタントの境治さんは、不倫報道の転機について、「昨年1月、タレントのベッキーさん(33)と、歌手の川谷絵音さん(28)の不倫が発覚したことだった」と指摘する。
境さんがデータ会社に依頼し、在京キー局の不倫問題の放送時間を調べたところ、平成26、27年は年間30時間以下だったのに対し、ベッキーさんらの不倫が発覚した昨年は約6倍の170時間5分に急増。今年は8月27日までで120時間54分となっており、境さんは「明らかに報道が過熱している」と分析する。
ベッキーさんらの不倫問題では、ベッキーさんが記者会見で不倫を否定した後、2人の関係を裏付けるような無料通信アプリLINE(ライン)の生々しいやりとりが流出するという劇的な展開が強い関心を呼んだ。
週刊誌の報道を後追いしたテレビ番組は、約1年後にベッキーさんが地上波にレギュラー復帰するまで、「2人の動向を報じるたびに、通常より高い視聴率をマークし続けた」(境さん)という。
境さんは「この2年の不倫報道の急増ぶりは、ベッキーさんの件でテレビ局が『不倫は視聴率が取れる』と2匹目のどじょうを狙い続けた結果では」と話す。
◆ニュース番組でも
データではさらに、ワイドショーや情報番組だけでなく、ニュースや報道番組でも「不倫」を扱う時間が増加していることが明らかになった。
境さんは「ここ2~3年の間、とくに午前帯で、ワイドショー・情報番組と、ニュース・報道番組の垣根が低くなった」と分析する。インターネットの隆盛で速報性が重視されるようになり、民放各局の番組編成で、情報・報道分野のライブ番組の割合が増えていることが一因だという。とくに平日午前6時~昼過ぎまでは、ニュースとワイドショーが連なる。
「とはいえ毎日、そんなにキャッチーなネタがあるわけでもない。不倫は時間を埋めるのに手軽な話題になっている」
また、上智大の碓井広義教授(メディア文化論)は、報道番組で有名人の不倫が報じられるようになった背景について、「以前は視聴率とは無関係だった報道番組も、現在は数字を求められるようになってきている」と指摘する。
テレビの求心力の低下に伴い、各局の番組の判断基準が、「より視聴率に依存するようになってきた」といい、「『不倫』のような、一昔前なら下世話と躊躇(ちゅうちょ)していたような話題も、視聴率を考えると長い時間、取り上げざるを得なくなっている」と話す。
◆ネット連動で拍車
「インターネットの浸透が不倫報道の過熱に拍車を掛けた」と語るのは、同志社女子大の影山貴彦教授(メディアエンターテインメント論)だ。
不倫報道では、週刊誌がネット上で報道を予告し、その反響をテレビ局が取り上げることによって、さらにネットが盛り上がるという連動が起きている。
「ネット社会では個人が情報の受け手であり、発信者でもある。その場のたわいない発言でも、数が集まれば外部からは大きなムーブメントに見えてしまう」と分析。
それを社会的な問題としてテレビ局が取り上げることで、さらに話題が集まる。影山教授は、「不倫問題を取り上げること自体が悪いわけではない。ただ、今の状況は行き過ぎであり、『不倫報道バブル』とでもいうべきもの」と危惧した。
(産経新聞 2017.10.03)