週刊テレビ評
昨年のドラマ界リードしたTBS
力ある作り手の個性が光った
昨年もさまざまなドラマが放送されたが、年間を通じてリードしてきたのはTBSだ。その導火線となったのが一昨年10月期の「逃げるは恥だが役に立つ」(新垣結衣、星野源)である。契約結婚という新たな恋愛の形を、絶妙な表現で提示して注目を集めた。
年が明けると、「カルテット」(松たか子、満島ひかり、高橋一生、松田龍平)が登場した。4人の男女が鬱屈や葛藤を押し隠し、また時には露呈させながら交わす会話が何ともスリリングだった。この“行間を読む”楽しみこそ、坂元裕二脚本ならではのものだ。
続く4月期には、“共感しづらいヒロイン”のダブル不倫のてん末を描いた「あなたのことはそれほど」(波瑠、東出昌大)が話題となった。「カルテット」も「あなそれ」も、いわゆる万人向けのドラマではない。どこまで伝わるか、伝えられるかを探った実験作だ。結果としてドラマ表現の幅を押し広げたことに拍手を送りたい。
さらに10月期が充実していた。 ドラマの王道感に満ちた日曜劇場「陸王」(役所広司、竹内涼真)。マニアックな笑いのクドカンドラマ「監獄のお姫さま」(小泉今日子、森下愛子、菅野美穂、坂井真紀、満島ひかり)。そしてチーム医療のリアルをしっかり取り込んだ「コウノドリ」(綾野剛、吉田羊)の3本が並んだのだ。
この1年のTBS作品は、よく練られた脚本、興味深い登場人物、物語にふさわしいキャストに支えられており、その作り方は基本的に正統派だ。また「チーム半沢」と呼ばれる「陸王」の伊與田英徳や福澤克雄、「カルテット」の土井裕泰、「あなそれ」「監獄のお姫さま」の金子文紀など、力のある作り手による“署名性のドラマ”になっていたことも特色だ。
たとえば福澤は、過去に日曜劇場の「南極大陸」や「華麗なる一族」なども手がけてきた。スケールの大きな“男のドラマ”の見せ方が実に達者だ。物語の緩急のつけ方。キャラクターの際立たせ方。映像におけるアップと引きの効果的な使い方などに、“福澤調”とも言うべき個性が光る。
かつてTBSのドラマ部門には「時間ですよ」「寺内貫太郎一家」の久世光彦、「岸辺のアルバム」「ふぞろいの林檎(りんご)たち」の大山勝美や鴨下信一といった看板ディレクターがいた。いつの頃からか映画は監督のもので、ドラマはプロデューサーのものという雰囲気ができている。しかし、ドラマもまた演出家の個性と力量で作品の出来が左右されるはずなのだ。
他局も含め、今年もまた続きが気になるドラマ、クセになるドラマを1本でも多く見せてほしい。
(毎日新聞 2018年1月5日 東京夕刊)