倉本聰 ドラマへの遺言
第3回
なぜ昼ドラに 朝ドラ断念の理由は
全国ネットの弊害だった
テレビドラマは録画視聴が当たり前の時代ながら、「リアルタイム視聴」にこだわる業界の慣習。どこを改善すべきか。
碓井 テレビって、視聴率という神が支配する、いわば一神教の世界なんですよね。良質な番組だろうが、コアなファンがいようが、視聴率が低ければ評価されない。逆に視聴率さえ取っていれば、中身は問わない。制作者も出世できます。かつて日本テレビのプロデューサーが視聴率調査のサンプル家庭をつきとめ、買収しようとしたことが発覚し、大騒動になりました。
倉本 僕は録画という機能が発明され、家庭用に録画機っていうのが入った時にね、今までの面積のみの視聴率から深さのディメンションが加わり、容積の視聴率が出てくると期待していたんです。しかも、録画してまで見たいドラマとなれば、プラス1ではなく、掛ける1・5とかね。ましてやそれを永久録画したいと思う作品であれば、掛ける5になるんじゃないかと期待したんですが、それが変わらなかったんですね。
碓井 テレビ局も広告会社もずっと、リアルタイムの視聴率で商売してきましたからね。
倉本 番組視聴率ではなく、ゴマすり視聴率だってことが判明して。本来ならば、本当に番組のことを真剣に考えるのならば、第三者機関が視聴率調査をやらなければ、ダメになりますよね。コマーシャルを入れてるものを材料にしてテレビ視聴率を出して、そして何十億もの金が動いているわけでしょう? 異常だと思いますね。そんなこともあって、民放のゴールデンタイムがガチャガチャになっちゃった。それが、NHKの連続テレビ小説(朝ドラ)では20%を取ってるわけですよ。それだけ朝に視聴者層がいるわけでしょう?
碓井 朝ドラも今年で56年目。時計代わりも含め、生活習慣の一部と化している人が多い。1968年から約20年間ほど、TBSが「ポーラテレビ小説」で朝ドラに対抗していましたが、それ以降はずっとNHKのひとり勝ち状態です。
倉本 ええ。なぜ民放がそこに斬り込まないのかが不思議だった。そんな話を、加賀まりこや八千草薫さんたちに話していたら、「やりましょうよ」っていう話になった。出演料はタダでもいいから出たいよなんていう話になってきて、「やすらぎの郷」の元となる企画を作ったんですね。そうしたらやっぱり、テレビ朝日は受けてくれたんだけれど、朝で企画したのはダメだった。ゴールデンに対してシルバーにしたんだけれど、朝の時間枠っていうのは、キー局が持っていないんですよ。地方局がバラバラに持っている。だから、全国ネットにならないんです。だから、昼の枠に置いたんです。
碓井 朝は各地方局が生放送の情報番組を流していますよね。
倉本 皆結局、「やすらぎの郷」は録画して見ていた。夕方になると番組に関するネットの書き込みが増えるんです。オンタイムの視聴率は6、7%。それでもいいっていうんだけれども、録画視聴率が加わったらまた違ったでしょうね。「やすらぎの郷」を通じて感じたのは、テレビの数字のマジックみたいなものは調査が上手く出来ているのか出来ていないのか。改めて疑問を持ちましたね。(あすにつづく)
(聞き手・碓井広義)
▽くらもと・そう 1935年1月1日、東京都生まれ。東大文学部卒業後、ニッポン放送を経て脚本家。77年北海道富良野市に移住。84年「富良野塾」を開設し、2010年の閉塾まで若手俳優と脚本家を養成。21年間続いたドラマ「北の国から」ほか多数のドラマおよび舞台の脚本を手がける。
▽うすい・ひろよし 1955年、長野県生まれ。慶大法学部卒。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。現在、上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。笠智衆主演「波の盆」(83年)で倉本聰と出会い、35年にわたって師事している。