Quantcast
Channel: 碓井広義ブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 5568

新感覚サスペンスの収穫「アンナチュラル」

$
0
0


しんぶん赤旗のリレーコラム「波動」。

今回は、ドラマ「アンナチュラル」について書きました。


「新感覚サスペンス」の収穫
先月16日に最終回を迎えた「アンナチュラル」(TBS系)は、1月クールのドラマにおける最大の収穫だった。

物語の舞台は「不自然死究明研究所(UDIラボ)」。警察や自治体が持ち込む死因のわからない遺体を解剖し、「不自然な死(アンナチュラル・デス)」の正体を探る研究所だ。執刀するのは三澄ミコト(石原さとみ)や中堂系(井浦新)たち法医解剖医である。

まず、「不自然な死」というテーマと「UDIラボ」という設定自体が斬新だった。架空の組織とはいえ妙なリアリティがある。沢口靖子が活躍する科捜研は警察組織の一部だが、こちらは民間の組織。捜査権のないミコトたちは検査や調査を徹底的に行っていく。

集団自殺に見せかけた事件の真相や、雑居ビルの火災で亡くなった人物の本当の死因を究明してきたが、出色だったのは第7話だ。顔を隠した高校生Sがネットで「殺人実況生中継」と称するライブ配信を行う。そこには彼が殺したという同級生Yの遺体も映っていて、ミコトに「死因はなんだ?」と問いかけるのだ。

しかもミコトが間違えた場合は、人質Xの命も奪うと脅す。背後にあったのは学校でのいじめ問題だが、当事者たちの切実な心情を、トリックを含む巧妙なストーリーで描いて見事だった。

「不自然な死」は当初、非日常的・非現実的に見える。しかしミコトたちの取り組みによって、それが日常や現実と密接な関係にあることが分かってくる。物語の内容には高度な医学的専門知識が織り込まれているが、説明不足で理解できなかったり、逆に説明過多でうるさいこともない。

この<新感覚サスペンス>ともいうべきドラマを支えていたのが野木亜紀子の脚本だ。一昨年の「逃げるは恥だが役に立つ」(TBS系)などとは全く異なる世界を対象としながら、綿密なリサーチと取材をベースに「科捜研の女」ならぬ「UDIラボの女」をきちんと造形していた。

物語展開は重層的であり簡単には先が読めない。特にミステリー性(謎解き)とヒューマン性(人間ドラマ)のバランスが絶妙で、快調なテンポと急ぎ過ぎない語り口の両立は演出陣のお手柄だ。ぜひ続編が見てみたい。

(しんぶん赤旗 「波動」2018.04.02)


Viewing all articles
Browse latest Browse all 5568

Trending Articles