週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
笹本稜平
『引火点~組織犯罪対策部マネロン室』
幻冬舎 1836円
犯罪がらみの資金洗浄を阻止するのが、マネーロンダリング対策室の任務だ。捜査対象となった、ある仮想通貨取引所。警部補の樫村たちが面会した女性CEOのもとに、小型ナイフと「次はお前だ」という脅迫状が届く。ネット経済の暗部に迫る、出色の警察小説だ。
本の雑誌編集部:編
『旅する本の雑誌』
本の雑誌社 1728円
巻頭は舘浦あざらし「函館・小樽・札幌弾丸ツアー」だ。山口瞳が泊まった函館元町ホテル、小樽文学館の植草甚一カフェなど選択が渋い。他に坪内祐三が小田原で訪ねる川崎長太郎ゆかりの料理店。荻原魚雷が選ぶ「東海道の三冊」など。旅は本で数倍豊かになる。
池田信夫
『丸山眞男と戦後日本の国体』
白水社 1512円
戦後のある時期、論壇をリードした丸山眞男。彼が喫した敗北を検証することで、戦後リベラルが挫折した原因を探ろうという試みだ。敗戦は開国だったのか。民主主義は永久革命だったのか。そして丸山にとって国体とは何だったのか。この国の現在の姿も見えてくる。
(週刊新潮 2018年9月27日秋風月増大号)
高橋源一郎:編著
『憲法が変わるかもしれない社会』
文藝春秋 1620円
改憲への動きが加速化する時代。天皇制とデモクラシー、立憲主義、不寛容社会と人権などの課題を、作家の高橋源一郎が片山杜秀、石川健治、森達也をはじめ気鋭の論者と語り合う。憲法を意味論と語用論に分けて考えるべきという長谷部恭男の指摘も示唆に富む。
柴田哲孝
『ISOROKU 異聞・真珠湾攻撃』
祥伝社 2052円
『下山事件 暗殺者たちの夏』から約3年。小説の形で昭和史の深層に迫り続ける著者が挑んだテーマは真珠湾攻撃だ。日本を追い詰めるルーズベルトが仕掛けた策謀の数々。パールハーバーはその総仕上げだったのか。そして山本五十六が果たした“役割”とは?
安倍龍太郎
『筧千佐子 60回の告白
~ルポ・連続青酸不審死事件』
朝日新聞出版 1512円
交際した男たちが死亡するたび、多額の遺産を取得。最終的な被害者の数は今も不明だ。新聞記者である著者は拘置所で何度も被告と向き合うが、犯行に対する現実感が希薄であることに驚く。ごく普通のおばちゃんは、いかにして「後妻業」のプロになったのか。
(週刊新潮 2018年9月20日号)