週刊新潮に、以下の書評を寄稿しました。
青木正美 『文藝春秋作家原稿流出始末記』
本の雑誌社 1620円
古書店主である著者が偶然手に入れた、大江健三郎や安部公房などの生原稿。その後35年にわたって売買していくことになる作家たちの直筆原稿は、なぜ、どのようにして市場へと流れたのか。話は文藝春秋一社に留まらない。文壇、そして出版界をめぐる都市伝説の内幕だ。
永江 朗
『四苦八苦の哲学~生老病死を考える』
晶文社 1836円
『51歳からの読書術』などで知られる著者も還暦を迎えた。新作のテーマは生老病死の哲学だ。自身の体験や考察と、先人たちの時代を超えた思索が交錯する。プラトンと死。フーコーと病。本質的な問いを深めた人々の言葉に耳を傾け、再び自分に帰っていくのだ。
近藤勝重 『昭和歌謡は終わらない』
幻冬舎 1296円
歌と時代は手をつないでやってくる。特に詞(ことば)が力を持つ昭和歌謡には人の思いが刻まれていた。元毎日新聞記者の著者が、なかにし礼「人形の家」、阿久悠「舟唄」、山口洋子「うしろ姿」といった、自身が愛する名曲の背景と味わい所を語りつくしていく。
(週刊新潮 2018年11月1日号)
戸田 学
『話芸の達人~西条凡児・浜村淳・上岡龍太郎』
青土社 2160円
大阪の、いや日本の「一人芸」を代表する三人の揃い踏みだ。事実、誇張、飛躍で笑いを重ねた凡児。講談の修羅場のようなテクニックを駆使する浜村。「え~」という言葉を自らに禁じていた上岡。彼らの劇場やテレビでの「語り口」が採録されているのが有難い。
今井 彰 『光の人』
文藝春秋 1944円
著者はNHK『プロジェクトX』の元プロデューサー。本書は実話をベースにした書き下ろし小説だ。戦後、行き場を失っていた戦災孤児たち。主人公の門馬幸太郎は彼らと生活を共にしながら、自立の道を切り開いていく。その背後には門馬自身の凄惨な体験があった。
(週刊新潮 2018年10月25日号)