週刊テレビ評
NHK大河ドラマ「いだてん」
視聴率“一神教”にさよならを
第1話15・5%、第2話12・0%。NHK大河ドラマ「いだてん~東京オリムピック噺(ばなし)」の視聴率(関東地区、ビデオリサーチ調べ)だ。さっそく新聞や雑誌、そしてネットでも「低視聴率」が話題となっている。しかし、これは今回の企画が決まった時から予想できたことで、いわば想定内である。
まず、昨年の「西郷どん」もそうだったが、多くの日本人が好む大河ドラマの舞台は戦国時代と幕末・明治維新の時代だ。その意味で、今年の「いだてん」は明らかに異色作と言える。何しろ「時代劇」ではないどころか、「近現代劇」なのだから。
次に、主人公もまた誰もが知る「歴史上の人物」ではない。日本人として初めてオリンピックに参加したマラソンランナー、金栗四三(かなくりしそう)。1964(昭和39)年の東京オリンピック実現に尽力した水泳指導者、田畑政治(まさじ)。どちらもオリンピックやスポーツの世界では有名な人たちかもしれない。しかし社会全体では、このドラマで初めて知る人が多いのではないか。今回の大河は、そんな「知らない男たち」の物語なのだ。
さらに主演俳優は中村勘九郎と阿部サダヲだ。2人とも良い役者であり、演技力も申し分ない。だが国民的ドラマと呼ばれる枠としては、マニアックなキャスティングであることも事実だ。時代、人物、俳優、そのどれもが異例であること。むしろそこに今回の大河の意味があると言っていい。「これまでにない大河」という挑戦であり、実験である。異色作であり、野心作である。
そんなことができる作り手は、NHKの中にもそうはいない。「いだてん」を制作しているのは、脚本・宮藤官九郎、音楽・大友良英、演出・井上剛、制作統括・訓覇(くるべ)圭の「あまちゃん」チームだ。
朝ドラの歴史の中では、「あまちゃん」もまた王道でも正統派でもない。やはり異色作だった。むしろ朝ドラの常識や既成概念を打ち壊し、新たな価値を生み出したことで記憶に残る作品となった。このチームの投入は大河ドラマの可能性を広げるための奇策だ。
語り手は実在した伝説の落語家、古今亭志ん生。明治期を演じるのが森山未来で、昭和期はビートたけしだ。いかにも宮藤官九郎らしい、「いだてん」の姿勢を象徴する仕掛けだが、これも従来の大河ドラマとの落差に違和感を持つ視聴者がいるかもしれない。その一方で、制作陣のチャレンジ精神とユーモアと遊び心に拍手する人たちもいるはずだ。メディアは、ドラマを視聴率という“一神教”で語ることをそろそろ終わりにしてもいい。
(毎日新聞夕刊 2019.01.19)