新春ドラマ「丸儲けの女優」「大損する女優」
平成最後の新年は、三寒四温の日々である。が、そうした気候をよそに、テレビの世界ではすでに熱い戦いがスタートした。とりわけ今期は、脂の乗った女優たちの「乱打戦」が繰り広げられているという。その”損得勘定”とともに、新作の見どころをお伝えしよう。
昨今、連ドラではもっぱら「刑事もの」が幅を利かせてきた。今回の1月期ドラマもまた然りなのだが、そこに割って入ったのが「法曹もの」である。
「『リーガル・ハイ』『99・9 刑事専門弁護士』などのヒットもあり、数字が見込めるコンテンツとしてすでに定着しました。実際、前回10月期にも『リーガルV』『SUITS』などの話題作が放映され、そうした流れは今期も健在です」
とは、スポーツ紙の芸能担当記者である。
「なかでも見ものは、17年ぶりの連ドラ主演となる常盤貴子と、同じく6年ぶりの竹内結子の”アラフォー対決”でしょう」
常盤は今回、米国の人気ドラマ原作の『グッドワイフ』(TBS系日曜21時)に主演。専業主婦から16年ぶりに弁護士に復職するという役柄を演じている。
「90年代に”連ドラの女王”と称された常盤自身と重なるような設定ですが、何しろ彼女は2000年、同じ日曜劇場の『ビューティフルライフ』でキムタクと共演し、最終回で41・3%という数字を打ち立てている。当時とはテレビを取り巻く状況は異なりますが、19年ぶりの日曜劇場復帰は注目せざるを得ません」(同)
ライターの吉田潮氏が言う。
「常盤貴子といっても、今の若者には朝ドラの『まれ』のお母さん役のイメージが強いのではと思いますが、初回を見て、日米の弁護士の社会的な環境の違いをうまく反映させ、アレンジしていると思いました。共演の小泉孝太郎もよくサポートしていて、いいスタートを切ったと思います」
対する竹内は、スピンドクター(情報操作のプロ)を題材にした『スキャンダル専門弁護士 QUEEN』(フジ系木曜22時)で、危機管理に長けた弁護士を演じている。が、
「これだけ『ボヘミアン・ラプソディ』がヒットしている時に、QUEENとは間が悪い。実際にクイーンに『スキャンダル』という楽曲があるので、それに掛けているのかと思ったら全くの別物でした」
とは、コラムニストの林操氏である。
「それはともかく、クレバーで意地悪な弁護士というのが、家庭的なイメージの竹内には合いません。オープニングでは彼女の足から少しずつカメラが上がっていくのですが、何だかフラフラしていて、ハイヒールを履き慣れていないんだと思いました。共演の水川あさみがクールビューティーキャラで上手くはまっているだけに、竹内のミスキャストぶりが目立ちます」
果たして初回は、『グッドワイフ』10・0%に対し『QUEEN』は9・3%と、僅差で常盤の”レア度”に軍配が上がったわけである。
弁護士ものでは、他に坂口健太郎と川口春奈の『イノセンス 冤罪弁護士』(日テレ系土曜22時)がある。先の林氏は、
「ここは従来、ジャニーズの俳優枠でした。ところが数字が振るわず、日テレはトライストーンの坂口と研音の川口を投入してきたわけですが、果たして吉と出るでしょうか……」
というのも、先の記者は、
「川口は、13年10月期主演した『夫のカノジョ』で3・0%という21世紀のプライム枠連ドラで最低視聴率(当時)を更新し、打ち切りを強いられた”低視聴率の女王”。坂口もまた、高畑充希との交際が報じられて女性人気は下降気味で、厳しい戦いになりそうです」
前述した「刑事もの」も、1月期は豊作だ。前クールから続く『相棒シーズン17』と合わせ、計5本。新作はバラバラ殺人、密室殺人、通り魔に焼殺と、初回から凶悪事件のオンパレードだが、まずは月9枠から。
「『トレース?科捜研の男?』(フジ系月曜21時)は、テレ朝の『科捜研の女』をもじったタイトルながら、初回は12・3%とまずまずの滑り出しとなりました」(前出記者)
それでも、不安要素は大いにあるという。
「主演の錦戸亮は、クールで陰のある天才法医研究員。ところが、悲鳴を上げた新木優子に心配そうに駆け寄るシーンがありました。感情は乏しいけれど科学的思考で真実にたどり着く役どころなのに、演出がまるで合っていない。これではイケメンで優しいジャニーズのままです」
とは、先の林氏。加えて、
「脚本も、狂言回し役の船越英一郎に頼りすぎです。彼が大声で怒鳴ったり机を叩いたりする場面が目立ち、ひたすら下品キャラになり下がっているのです」
月9初主演の錦戸にとっては、重い試練であろう。
続いてテレ朝系の『刑事ゼロ』(木曜20時)は、沢村一樹が記憶喪失の捜査員を演じ、テレ東系の『記憶捜査?新宿東署事件ファイル?』(金曜20時)は75歳の北大路欣也が、定年間近の刑事役で主演する。
上智大学の碓井広義教授(メディア文化論)が言う。
「沢村は朝ドラ『ひよっこ』に続き、またも記憶を失った役ですが、朝ドラ視聴者とのリンクを狙ったのではないでしょうか。テレ朝の刑事ものという安心感もあるし、凝ったストーリーで差異化を図る、そのひと手間がいいと思います。また北大路は『三匹のおっさん』に出演してテレ東に馴染みました。孫ほどの歳の共演者との世代間ギャップや、現場とキャリアとの対立など、見どころは多そうです」
錦戸とは反対に二人揃って”得した”と言えそうだ。
「ポスト米倉」は?
ベテラン勢に紅一点という布陣では、先の坂口の交際相手として名の挙がった高畑充希主演の『メゾン・ド・ポリス』(TBS系金曜22時)。新米刑事の高畑が、退職警官の住むシェアハウスを舞台に事件解決に挑むストーリーで、
「近藤正臣や小日向文世、角野卓造らコメディもできる演技派たちに、高畑がうまく溶け込んでいます」
林氏はそう評し、あわせて先の吉田氏も、
「その芸達者なおじさんで特に注目なのは、元科捜研で女たらし役の野口五郎。昭和のバラエティ『カックラキン大放送?』で”刑事ゴロンボ”に扮した経験がついに生かされたかと思うと、壮大な人生の伏線回収を見せられているようです」
ともあれ、
「前クールの『忘却のサチコ』で、心の痛手を美食で癒す編集者という役柄を演じ切った高畑は、今回も思い切ってショートカットにするなど、プロ意識が随所に見られる。あるいはこの作品で大化けするかもしれません」(前出記者)
けだし彼女も”得する”側であろう。
お次は、こちらも定番となった「お仕事もの」。有能でサバサバした女性が世の理不尽と対峙して悪を成敗、といった定型はあるにせよ、刑事や弁護士以外でも、ジャンルは実に多彩である。
まずは北川景子が、仕事ひとすじの不動産営業ウーマンを演じる『家売るオンナの逆襲』(日テレ系水曜22時)。これは16年7月期の続編となるのだが、吉田氏は、
「コミカルな部分を残したまま、松田翔太という新たなライバルを迎えて面白く流れていました。北川も共演の仲村トオルも決して演技派ではないので、ああいうドタバタ喜劇だとボロは出にくいのです」
第一話は、12・7%と好スタート。先の記者が言う。
「北川は、前作がDAIGOとの結婚後、連ドラ初主演でした。日テレは彼女を”ポスト米倉”になぞらえていて、実際に作中では『ドクターX』を髣髴とさせる『私に売れない家はありません!』といった決めゼリフもある。数字次第では、その目も十分に出てきます」
”大儲け”が見込めそうな北川に対し、どうにも旗色が悪いのは、
「『よつば銀行 原島浩美がモノ申す!』(テレ東系月曜22時)に主演する真木よう子です」
と、先の記者が続ける。ドラマは都銀の課長役の真木が、業績不振の支店を立て直していく奮戦記なのだが、
「真木は一昨年、クラウドファンディングで集めた資金で雑誌を作ると発表してコミケファンの反感を買って炎上。また12年には、常盤貴子の夫の長塚圭史との”W不倫デート”が発覚しました。今回、それらが蒸し返されるなど、ネガティブな要素が満載です」(同)
不倫相手の妻と同クールで対決とは異なものだが、せっかくの主演に放映前からケチがついてしまったわけである。先の吉田氏は、
「『よつば銀行』はテレ東のドラマBizシリーズの4作目です。前回の『ハラスメントゲーム』は良かったですが、今回は大コケの予感。真木は滑舌もよくないし、キャラクターで売っていくしかありません」
と言い、同じく林氏も、
「日経新聞を購読して『私の履歴書』に目を通すようなおじさん層には受けそうな作品ですが、真木のゴワゴワした安っぽい髪形に、つい目がいってしまう。大胆な行動で銀行の支店を立て直すクールな女性を演じるはずなのに、これでは台無しです」
後妻業とポンコツ女子
異色の”お仕事もの”を二つ。木村佳乃主演の『後妻業』(フジ系火曜21時)。黒川博行氏の原作で、女結婚詐欺師が資産家の老人を狙うラブ・サスペンスに仕上がっている。
「木村の持ち味は、ツンとすましているようで、ヤケクソな役を演じられるギャップ。最近では『世界の果てまでイッテQ!』で、ヘビの燻製を食べるなど三枚目キャラが人気で、今回も関西弁の悪女という新境地に挑んでいます」(前出記者)
先の吉田氏も、
「映画『後妻業の女』(16年8月公開)の、トヨエツと大竹しのぶペアのインパクトは強すぎました。サイコパスの女を演じさせて大竹の右に出る者はおらず、今回のW木村(共演は木村多江)がそれを超えるのは難しいでしょうが、ドラマとしてどう演出するのかは大いに期待しています」
最後に、今月初めに不動産会社社長との”熱愛”が報じられた深田恭子。『初めて恋をした日に読む話』(TBS系火曜22時)は、深田演じるアラサー塾講師が、タイプの異なる男たちに囲まれながら、教え子を東大受験に導くというお話である。これを吉田氏が、
「フカキョンはいつまでキャピキャピした役ができるのかという点で、気になる作品です。もう”しくじり鈍感女子”役はおなか一杯で、女優としては少し不憫な気がしますね」
と案じれば、林氏も、
「また彼女がポンコツ女子を演じているのか、と。年下イケメンに囲まれたアラサーの”ハーレムもの”であり、深田への接待か、とも訝りたくなる作品です。それでいて受験ものでもあり、このタイトル。散漫になりはしまいかと心配です」
そうした指摘もむべなるかなで、何しろ、
「深田は昨年1月期に『隣の家族は青く見える』で”妊活妻”という刺激的な役に挑んだものの、平均視聴率6・2%と惨敗しました。熱愛報道も『番宣なのでは』と囁かれているのですが、開き直った演技で起死回生の2ケタを取るのか、あるいはこのまま沈むのか。見ものです」(前出記者)
新年早々、乾坤一擲というわけである。
(週刊新潮 2019.01.24号)