作家の橋本治さんが亡くなりました。1月29日のことだそうです。
自分ではあまり意識していませんでしたが、新刊が出れば、必ず手に取っていました。そして、「いつもの橋本節だ」とか、「今回は読みやすいなあ」とか、勝手なことを思っていて・・。
そうか、もう新しい本は出ないのか。やはり寂しいですね。
本棚から取り出したのは、もう10年くらい前の『最後の「ああでもなくこうでもなく」 そして、時代は続いて行く』(マドラ出版)です。
2009年に幕を閉じてしまった愛読誌『広告批評』で、11年にもわたって連載が続いてきた、時評エッセイの最終巻。
連載自体は最終号まで継続されましたが、「単行本としてはラストになる」と橋本さん自身が書いていました。
2007年から2008年にかけての間に起きた、食品偽装、サブプライム問題、そして秋葉原無差別殺傷事件などが論じられています。特色は、「人間」にフォーカスされていることでしょうか。
例によって、決して分かりやすい内容ではありません。いや、それは正確じゃないな。
いわゆる「テレビ的な分かりやすさ」のようなものを、橋本さんは目指してもいないし、「分かりづらい」という読者がいるのも承知で書いていたはずです。
でも、橋本さんは、そんな読者に「じゃあ、読むのやめれば?」とは言わないし、「ついてこれる人だけ、ついてきなさい」とも言わない。
たぶん、「十分には分からないけど、でも、橋本さんでなければ展開する人はいない論旨であり、やはり読みたい」と答える読者が大多数だったんじゃないでしょうか。
とにかく、「人のあり方」に軸を置くこのシリーズが、この最終巻も含め、泥沼化する近代産業社会への強烈なカウンターパンチであることは確かです。
これからも、ときどき、こうして読み直そうと思います。
橋本治、享年70。
合掌。
最後の「ああでもなくこうでもなく」―そして、時代は続いて行く橋本治
マドラ出版