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毎日新聞で、「公取委ジャニーズ注意」について解説

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<検証>

公取委ジャニーズ注意 芸能界の慣習にメス 

「番組成り立たない」 放送側そんたく背景

 

アイドルグループ「SMAP」の元メンバー3人のテレビ出演を巡り、ジャニーズ事務所がテレビ局に出演させないよう圧力をかけた疑いがあり、公正取引委員会は独占禁止法違反の恐れがあるとして同事務所を注意した。違反行為までは認められなかったが、民放関係者らは、大きな力を持つ同事務所へのそんたくを指摘。公取委の注意が、放送界や芸能界の体質改善につながるか、影響が注目される。【屋代尚則、井上知大、渡辺暢】

「大手の事務所を独立したタレントは、何年かテレビに出られなくなるのは、見ている方も気づいていると思う。ジャニーズ事務所に限らず(芸能界では)周知なんですよ」

公取委によるジャニーズ事務所への注意をマスコミ各社が報じた翌日の18日、日本テレビ系の情報番組「スッキリ」で司会を務めるタレントの加藤浩次さんは、ジャニーズなど大手芸能事務所と放送界との親密な関係の実態を明かした。

元SMAPメンバーのうち稲垣吾郎さん、草なぎ剛さん、香取慎吾さんの3人は2017年に同事務所から独立後、民放のレギュラー番組がなくなった。公取委は、同事務所がテレビ局に圧力をかけた疑いがあるとして調査し、今回の注意に至った。同事務所は17日夜、ホームページで「圧力」を否定したが、複数の民放関係者は「明確に分かる形での『圧力』はなかっただろうが、テレビ局側に『そんたく』はあったはずだ」と口をそろえる。背景には「ジャニーズのタレントがいないと番組作りが成り立たない」(民放関係者)という実情がある。別の民放幹部は「3人を起用すれば、『嵐』や『V6』を出してくれなくなるリスクがある」と打ち明ける。

「SMAPはなぜ解散したのか」などの著書のある武蔵大非常勤講師の松谷創一郎さん(社会情報学)は「元SMAPの3人だけでなく、芸能界では事務所を辞めて、テレビなどの仕事がなくなる類似の事案はある」と話す。数年前には、別の大手事務所を辞めて芸名を変え、出演機会が減った女優の例もあった。

テレビ局の報道姿勢への批判も上がる。大阪の民放局で番組制作に関わった経歴を持つ同志社女子大の影山貴彦教授(メディアエンターテインメント論)は「公取委のジャニーズへの注意について、民放各局による報道が極端に少ない。視聴者から違和感を持たれても仕方がない」と述べ、大手事務所との近すぎる関係を疑問視する。松谷さんも「放送局自身が今回の問題をきちんと調査すべきだ」と強調する。

芸能人の権利を守る「日本エンターテイナーライツ協会」の共同代表理事を務める佐藤大和弁護士は「公取委は事務所だけでなく、テレビ局側も注意すべきだった」と指摘したうえで、「芸能事務所には本来、反社会勢力からタレントを守るなどの役割もある。不当な妨害が是正される、よりよい環境になってほしい」と期待感を示す。

今回の注意を受けて、インターネット上には、元SMAP3人のテレビでの復活を期待する声も上がる。ただ、民放では「今回の件だけで3人を積極的に使おうという動きには、すぐにはならないのではないか」(関係者)との冷ややかな声が強い。一方で、別の民放幹部は「公取委がこうした判断をしたことは無視できない」と述べ、今後の地上波出演が検討される可能性も示唆した。

テレビ制作現場に詳しい碓井広義・上智大教授(メディア文化論)は「才能ある芸能人を出演させなければ、結果的に不利益を被るのは視聴者だ。大手事務所と面倒を起こしたくないというテレビ局の『事なかれ主義』で生じてきた視聴者の不利益が、解消されるきっかけになれば」と話す。

 ◇「自戒」に期待

「ものすごくそんたくが働く業界。証拠も少なく、独禁法違反の認定は難しいのではないか」。公取委のジャニーズへの調査について、関係者からは当初から悲観的な見方が出ていた。結論はそうした見方に沿って「注意」にとどまったが、移籍トラブルを巡り芸能事務所に注意したのは初めてとみられ、業界に切り込んだ意義は大きいとの評価もある。

フリーランスで働く人が増えたことを背景に、公取委の有識者検討会は2018年2月、企業による移籍制限などの不利な条件の押しつけは独禁法が禁じる「優越的地位の乱用」に当たる恐れがあるとの報告書をまとめた。芸能人やスポーツ選手も保護の対象になり得るとの見解で、ちょうど元SMAPメンバーの独立が話題になっていたこともあり、公取委の動きが注目された。

公取委も独禁法の取り締まり対象となる事例があるかどうか、芸能・スポーツ界を幅広く調べてきた模様だ。しかし、結びつきが強い業界で圧力の存在を立証して違反を認定するのは簡単でなく、ジャニーズ事務所やテレビ局への調査は難航したとみられる。独禁法違反を巡る公取委の措置には3段階あるが、法的措置の排除措置命令や行政指導に当たる警告に続き、注意は最も弱い措置だ。ただ、公取委には調査打ち切りという選択肢もあった。それでも注意としたのは、公取委が、テレビ局と大手芸能事務所の不均衡な関係に疑念を抱き、改善を求める強い姿勢を示した結果だともいえる。

公取委内部では当初、18年の報告書が出たこと自体が「業界の自戒を促すことになる」との見方があった。公取委が業界を監視する過程では、自主的な改善例も確認された。ただ、芸能・スポーツ界の裾野は広く、「育成費用回収の面からも、移籍制限は仕方ない」といった考えは根強い。

そうした中、今回の注意で業界への「一罰百戒」が期待され、公取委関係者は「業界内の自主的な慣習打破が促されている」と解説する。業界への浸透には時間がかかりそうで、公取委は今後も同種の事例については厳しく監視を続けるとみられる。

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 ◇事務所「圧力ない」

ジャニーズ事務所は17日深夜、ホームページで、「弊社がテレビ局に圧力などをかけた事実はなく、公正取引委員会からも独占禁止法違反行為があったとして行政処分や警告を受けたものでもありません。とはいえ、このような当局からの調査を受けたことは重く受け止め、今後は誤解を受けないように留意したいと思います」とのコメントを発表した。

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 ◆独禁法違反を巡る公取委の措置

◇排除措置命令(法的措置)

独禁法違反の認定時、違反の取りやめや再発防止を求める。原則公表

◇警告(行政指導)

違反の恐れがある時、改善措置を求める。原則公表

◇注意

直ちに違反とは認められないが、行為を継続すれば将来的に違反につながる恐れがある時、未然防止の観点から行う。原則非公表

(毎日新聞 2019.07.19)

 

 


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