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Channel: 碓井広義ブログ
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2013年 テレビは何を映してきたか (5月編)

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ハワイ島 2013

日刊ゲンダイに連載している番組時評コラム「TV見るべきものは!!」を時間順に読み直し、今年のテレビが何を映してきたかを振り返っています。

今日は5月分。

各文章は掲載時のまま。文末の日付は掲載日です。


2013年 テレビは何を映してきたか (5月編)

「島耕作のアジア立志伝」 NHK

テーマ、視点、表現。これらは「ドキュメンタリーの3大要素」である。3つ全てが新しいものなどそう簡単には作れないが、たとえ一つでもチャレンジがあれば、それは見るに値するドキュメンタリー番組なのだ。

先週、NHK総合で「島耕作のアジア立志伝」の初回スペシャルが放送された。テーマはアジアの大物経営者たちの人物像と経営戦略。日本企業が彼らから学ぶことは多いのではないか、というのが視点。加えて「アニメ・ドキュメンタリー」という表現手法も大きな特色である。

タイトル通り、弘兼憲史のビジネス漫画「島耕作」シリーズの主人公が番組の案内役で、声を担当するのは唐沢寿明だ。

たとえば1回目に登場した華僑の巨大企業グループ総帥。少年時代における父親とのエピソードや、20年以上前に中国の?小平との間で行われた会談の様子などは、アニメならではの再現性と臨場感で描かれていた。

また本人への密着取材やインタビューも、地に足が着いた中身のある内容だった。外資に開放される前に市場を開拓する「風険投資」。危機を機会(チャンス)と捉え、「勇敢に賢く闘う」姿勢など、確かに刺激的だ。

大人が見るべき1本ではあるが、この「初回スペシャル」以外は基本的にBS1での放送となる。前後して地上波でも流せばいいのにと思う。

(2013.05.07)


「雲の階段」 日本テレビ

離島にある医師不足の診療所。医師免許を持たない事務員(長谷川博己)が、献身的な看護師(稲森いずみ)のサポートで医療行為を行っていた。

しかし急を要する令嬢(木村文乃)に手術を施したことから彼の運命が変わってくる。「雲の階段」(日本テレビ・水曜夜10時)は恋愛・医療・サスペンスの要素を併せ持つ欲張りなドラマだ。

見どころは主演・長谷川の“葛藤”である。無免許ではあるが、人の命を救っているという自負。その技量を極めたいという強い欲求。また稲森と木村、立場もタイプも違う女性2人をめぐる三角関係も複雑だ。自分の中で湧き上がってきた、人生に対する野心と欲望をどこまで解き放つのか。

そんな“内なるせめぎ合い”を、長谷川はオーバーアクションで見せるのではなく、ふとした表情や佇まいで丁寧に表現していく。その一方で、手術場面での「目ヂカラ」は半端ではない。

先週までの平均視聴率は9%。同じく平均で12%台をキープする「家族ゲーム」と裏表であることを思えば大健闘だろう。それに物語の主な舞台が島から東京へと移り、ここからが勝負所となる。離島での手術はあくまでも患者の命を救うためだったが、東京の総合病院でのそれは自身の栄達のためでもあるからだ。

登るほどに致命的で危険な階段だが、そこからしか見えない風景もある。

(2013.05.14)


「ラスト・シンデレラ」 フジテレビ

37歳の米倉涼子(37)がミニの制服姿で頑張っているが(日本テレビ「35歳の高校生」)、こちらの“涼子”も、「お忘れなく!」とばかりに元気ハツラツだ。「ラスト・シンデレラ」(フジテレビ・木曜夜10時)の篠原涼子、39歳である。

役柄は、仕事はできるが「彼氏いない歴10年」という美容師。その“おやじ女子”ぶりが笑えるが、最大の強みは篠原を含め3人の女性をヒロインとしたことにある。未婚の篠原、バツイチで肉食系の飯島直子、そして夫と子供がいる大塚寧々。NHK朝ドラ「あまちゃん」が3世代で縦のトリプルヒロインだとすれば、こちらは横並びのトリプルヒロインだ。

篠原と年下のBMXライダー(三浦春馬)、また同期の美容師(藤木直人)との関係が物語の軸だが、それ以上に他の2人が気になる。飯島はこれまでの欲望一直線な生き方を変えようとしているし、大塚は夫以外の男性との出会いにドキドキしている。篠原はたとえ三浦に翻弄されようと、藤木とすったもんだしようと、まあ、大丈夫。しかし、飯島や大塚にはこの世代の女性特有の危うさがあり、目が離せないのだ。

実はこのドラマ、放送開始から一度も視聴率を下げたことがない。13%台でスタートし、毎回じわじわと上げて先週は15%まできた。篠原の奮闘に加えてのトリプルヒロイン効果である。

(2013.05.21)


「SWITCHインタビュー 達人達」 Eテレ

誰かの話を聞くのはインタビュー。2人が向き合って話しあうのは対談。

しかしEテレ土曜夜10時「SWITCH(スイッチ)インタビュー 達人達」では、注目すべき人物2人が、前半と後半でインタビュアーとゲストの立場を交代(スイッチ)する。いわゆるインタビューや対談の枠を超えた、新感覚のインタビュー番組だと言っていい。

番組の生命線は人選と組み合わせだ。たとえば構成作家・小山薫堂とアートディレクター・佐藤可士和の回では、企画や発想の手法といった互いの手の内をどこまで見せるか、その「カードの切り方」に醍醐味があった。

先週は脚本家の宮藤官九郎と、バイオリニストの葉加瀬太郎だ。朝ドラ「あまちゃん」が絶好調の宮藤は、田舎の人たちの「ここには何もなくて」という自信のなさや、逆に外部から「本当に何もないですね」などと言われると頭にくる感じを描きたいと語っていた。

一方の葉加瀬は、ブラームスに対する特別な思いと、その楽曲には年齢を重ねることで新たな発見があると明かしていた。そんな葉加瀬の古典回帰には、昨年宮藤が歌舞伎の脚本を手掛けたことに通じる模索の姿勢がある。

相手が単なるインタビュアーではないからこその話の広がりと展開。さらに互いの仕事の現場が垣間見られる興味。1粒で2度おいしい“対談ドキュメント”だ。

(2013.05.28)


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