ハワイ島 2013
日刊ゲンダイに連載している、番組時評コラム「TV見るべきものは!!」。
この「同時代記録」を再読しながら、今年のテレビが何を映してきたかを振り返っています。
今日は7月分。
あの「半沢直樹」が始まったわけですね(笑)。
それに、日本テレビの「Woman」も。
各文章は掲載時のまま。
文末の日付は掲載日です。
2013年 テレビは何を映してきたか (7月編)
「激流〜私を憶えていますか?」 NHK
かつて1人の女子中学生が修学旅行中に失踪した。男女一緒のグループで京都の町を歩き回っていた際の出来事だ。それから20年。30代半ばになった女子3人(田中麗奈、国仲涼子、ともさかりえ)にメールが届く。文面は「私を憶えていますか?冬葉」。冬葉は失踪した女子中学生(刈谷友衣子)の名前だった。
NHKドラマ10「激流〜私を憶えていますか?」(火曜夜10時)が始まった。原作は柴田よしきの長編小説。全8回の脚色は「Dr.コトー診療所」などの吉田紀子だ。
奇妙なメールをきっかけに、現在は刑事の桐谷健太と銀行マンの山本耕史も加えた5人が再会を果たす。しかも桐谷以外の4人は、それぞれ私生活や仕事にトラブルを抱えていた。メールの差出人は本当に冬葉なのか。そうでないなら、誰がどんな目的で・・・。
謎解きもさることながら、このドラマの見所は田中、国仲、ともさかという同世代女優の競演にある。仕事の壁、離婚問題、主婦売春と、30代半ば女性の少しお疲れ気味の日常がリアルだ。いや、それ以上に、これから明らかになっていくはずの15歳から35歳まで、20年という“女たちの激流”こそがドラマの核だろう。
さらに教師役の賀来千香子と母親役の田中美佐子による、50代熟女優対決も見逃せない。それにしても、美少女・刈谷はどこへ消えたのか。
(2013.07.02)
「Woman」 日本テレビ
夏ドラマが動き出した。今期の特色は、お馴染み女優のお馴染みシリーズが並んでいることだ。フジテレビの江角マキコ「ショムニ2013」、日本テレビの観月ありさ「斉藤さん」など。制作側にとって視聴率の歩留りが読める安心企画である。
その意味で、シングルマザーの子育て物語「Woman」(日本テレビ・水曜夜10時)はチャレンジ企画だ。夫(小栗旬)を事故で亡くした満島ひかりが2人の子供を自力で育てている。保育園が月3万8千円、託児所が4万6千円。パートの掛け持ちをしても家計は苦しい。夜にかかる仕事の時給は高いが、幼い子供たちだけで過ごす時間が長くなって不安だ。
肉体的な疲労、子供の世話を十分にできないことへの苛立ち、社会に対する疎外感、さらに寂しさが追い打ちをかける。そんな「いっぱいいっぱい」のシングルマザーを、満島は体当たりの動きと驚くほど繊細な表情で見せていく。
駅の階段を幼い娘と共に乳母車を抱えて駆け上がる姿。同じ境遇の臼田あさ美に、今の状況から抜け出すには「フーゾクか再婚」と言われた時の切ない目。こういうドラマでは、視聴者は健気さを強調されれば嫌味と感じ、同情を誘う下心が見えれば反発する。綱渡りともいえる演技が求められるこのドラマ、満島の代表作の一つになりそうな気迫に満ちている。
(2013.07.09)
「半沢直樹」 TBS
夏ドラマの初回視聴率がとても高い。テレビ朝日「DOCTORS2」19.6%。フジテレビ「ショムニ2013」18.3%。そしてTBS「半沢直樹」が19.4%だ。個別の分析はともかく、最大の要因は「毎日メチャ暑い!」ことだろう。この猛暑では外で夜遊びする気にならない。みんな、早く家に帰って、クーラーの効いた部屋で休息したいのだ。多分。
「半沢直樹」の注目ポイントは2つある。まず主人公が大量採用の“バブル世代”であること。企業内では、「楽をして禄をはむ」など負のイメージで語られることの多い彼らにスポットを当てたストーリーが新鮮だ。
池井戸潤の原作「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」は、優れた企業小説の例にもれず、内部(ここでは銀行)にいる人間の生態を巧みに描いている。福澤克雄ディレクター(「華麗なる一族」など)の演出は、この原作を相手に正攻法の真っ向勝負だ。
第2のポイントは主演の堺雅人である。今年6月、「リーガル・ハイ」(フジ)と「大奥」(TBS)の演技により、ギャラクシー賞テレビ部門の個人賞を受賞したが、まさに旬と言っていい。シリアスとユーモアの絶妙なバランス、そして目ヂカラが群を抜いている。
思えばタイトルを「半沢直樹」としたのは大胆な選択だったはず。その大胆さも吉と出た。
(2013.07.16)
「DOCTORS2〜最強の名医〜」 テレビ朝日
昨年秋、米倉涼子主演の「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」で、それまでフジテレビの独壇場だった医療ドラマでの“陣地取り”に成功したテレビ朝日。この夏、「DOCTORS2〜最強の名医〜」を投入したのもいいタイミングだ。
舞台は野際陽子が経営する総合病院。赤字だけでなく、働く者たちのプロ意識のv低さが際立っていたこの病院を改革するのが敏腕外科医の沢村一樹だ。患者を救うためには手段を選ばない沢村の清濁併せ呑みと、神の手のごとき手術ぶりが見どころとなっている。
そして第2の主役というべきなのが高嶋政伸だ。病院長・野際の甥で外科医だが、傲慢にしてエキセントリック。沢村を目の敵にしている。病院の後継者を自任するが、人望は全くない。先週も野際から「人格者になれ」と言われて、ガンジーの伝記を読み出す始末だ。
強気と弱気を繰り返し、叔母である野際に「卓(すぐる)ちゃん、がんばって」と励まされる姿は、「ずっとあなたが好きだった」(TBS、92年)の“冬彦さん”を想起させるほどエグい。
この高嶋の怪演は一見の価値がある。最近は元妻・美元とのドロ沼離婚裁判ばかりが目立ったが、そのうっぷんさえ役柄に投入しているかのようだ。これからますます加速するであろう沢村の超人化と高嶋の怪人化。2枚看板がこのドラマの強みだ。
(2013.07.23)
「孤独のグルメ シーズン3」 テレビ東京
昨年このコラムでも取り上げたテレビ東京「孤独のグルメ シーズン2」が、ソーシャルテレビ・アワード2013の「日経エンタテインメント!賞」を受賞した。一見、ソーシャルメディアとの連動性は薄そうだが、ツイッターなどへの投稿が非常に多いというのだ。
この夏、堂々の「シーズン3」が始まった。主人公はお馴染みの井之頭五郎(松重豊)だ。個人の輸入雑貨商だが、仕事の描写はごくわずか。商談で訪れた町に実在する食べ物屋で、松重が一人で食事をするだけなのだ。
基本的には東京エリアが舞台だが、先週は伊豆急に乗ってのプチ出張。川端康成「伊豆の踊子」で知られる河津町でグルメした。食したのは名物のワサビを使った「生ワサビ付きわさび丼」だ。
カツオ節をまぶしたご飯に自分ですりおろした生ワサビを乗せ、醤油をかけて混ぜるだけの超シンプルな一品。しかし、松重の表情でその美味さがわかる。しかもそこに、「おお、これ、いい!」とか、「白いメシ好きには堪らんぞ〜」といった心の声がナレーションされると、見る側も俄然食べたくなってくる。
そう、このドラマのキモは口数が少ない主人公の台詞ではなく、頻繁に発する心の声、つまり「つぶやき」にあるのだ。いわば松重の「ひとりツイッター」ドラマであり、ソーシャルテレビ・アワードの受賞も納得だ。
(2013.07.30)
日刊ゲンダイに連載している、番組時評コラム「TV見るべきものは!!」。
この「同時代記録」を再読しながら、今年のテレビが何を映してきたかを振り返っています。
今日は7月分。
あの「半沢直樹」が始まったわけですね(笑)。
それに、日本テレビの「Woman」も。
各文章は掲載時のまま。
文末の日付は掲載日です。
2013年 テレビは何を映してきたか (7月編)
「激流〜私を憶えていますか?」 NHK
かつて1人の女子中学生が修学旅行中に失踪した。男女一緒のグループで京都の町を歩き回っていた際の出来事だ。それから20年。30代半ばになった女子3人(田中麗奈、国仲涼子、ともさかりえ)にメールが届く。文面は「私を憶えていますか?冬葉」。冬葉は失踪した女子中学生(刈谷友衣子)の名前だった。
NHKドラマ10「激流〜私を憶えていますか?」(火曜夜10時)が始まった。原作は柴田よしきの長編小説。全8回の脚色は「Dr.コトー診療所」などの吉田紀子だ。
奇妙なメールをきっかけに、現在は刑事の桐谷健太と銀行マンの山本耕史も加えた5人が再会を果たす。しかも桐谷以外の4人は、それぞれ私生活や仕事にトラブルを抱えていた。メールの差出人は本当に冬葉なのか。そうでないなら、誰がどんな目的で・・・。
謎解きもさることながら、このドラマの見所は田中、国仲、ともさかという同世代女優の競演にある。仕事の壁、離婚問題、主婦売春と、30代半ば女性の少しお疲れ気味の日常がリアルだ。いや、それ以上に、これから明らかになっていくはずの15歳から35歳まで、20年という“女たちの激流”こそがドラマの核だろう。
さらに教師役の賀来千香子と母親役の田中美佐子による、50代熟女優対決も見逃せない。それにしても、美少女・刈谷はどこへ消えたのか。
(2013.07.02)
「Woman」 日本テレビ
夏ドラマが動き出した。今期の特色は、お馴染み女優のお馴染みシリーズが並んでいることだ。フジテレビの江角マキコ「ショムニ2013」、日本テレビの観月ありさ「斉藤さん」など。制作側にとって視聴率の歩留りが読める安心企画である。
その意味で、シングルマザーの子育て物語「Woman」(日本テレビ・水曜夜10時)はチャレンジ企画だ。夫(小栗旬)を事故で亡くした満島ひかりが2人の子供を自力で育てている。保育園が月3万8千円、託児所が4万6千円。パートの掛け持ちをしても家計は苦しい。夜にかかる仕事の時給は高いが、幼い子供たちだけで過ごす時間が長くなって不安だ。
肉体的な疲労、子供の世話を十分にできないことへの苛立ち、社会に対する疎外感、さらに寂しさが追い打ちをかける。そんな「いっぱいいっぱい」のシングルマザーを、満島は体当たりの動きと驚くほど繊細な表情で見せていく。
駅の階段を幼い娘と共に乳母車を抱えて駆け上がる姿。同じ境遇の臼田あさ美に、今の状況から抜け出すには「フーゾクか再婚」と言われた時の切ない目。こういうドラマでは、視聴者は健気さを強調されれば嫌味と感じ、同情を誘う下心が見えれば反発する。綱渡りともいえる演技が求められるこのドラマ、満島の代表作の一つになりそうな気迫に満ちている。
(2013.07.09)
「半沢直樹」 TBS
夏ドラマの初回視聴率がとても高い。テレビ朝日「DOCTORS2」19.6%。フジテレビ「ショムニ2013」18.3%。そしてTBS「半沢直樹」が19.4%だ。個別の分析はともかく、最大の要因は「毎日メチャ暑い!」ことだろう。この猛暑では外で夜遊びする気にならない。みんな、早く家に帰って、クーラーの効いた部屋で休息したいのだ。多分。
「半沢直樹」の注目ポイントは2つある。まず主人公が大量採用の“バブル世代”であること。企業内では、「楽をして禄をはむ」など負のイメージで語られることの多い彼らにスポットを当てたストーリーが新鮮だ。
池井戸潤の原作「オレたちバブル入行組」「オレたち花のバブル組」は、優れた企業小説の例にもれず、内部(ここでは銀行)にいる人間の生態を巧みに描いている。福澤克雄ディレクター(「華麗なる一族」など)の演出は、この原作を相手に正攻法の真っ向勝負だ。
第2のポイントは主演の堺雅人である。今年6月、「リーガル・ハイ」(フジ)と「大奥」(TBS)の演技により、ギャラクシー賞テレビ部門の個人賞を受賞したが、まさに旬と言っていい。シリアスとユーモアの絶妙なバランス、そして目ヂカラが群を抜いている。
思えばタイトルを「半沢直樹」としたのは大胆な選択だったはず。その大胆さも吉と出た。
(2013.07.16)
「DOCTORS2〜最強の名医〜」 テレビ朝日
昨年秋、米倉涼子主演の「ドクターX〜外科医・大門未知子〜」で、それまでフジテレビの独壇場だった医療ドラマでの“陣地取り”に成功したテレビ朝日。この夏、「DOCTORS2〜最強の名医〜」を投入したのもいいタイミングだ。
舞台は野際陽子が経営する総合病院。赤字だけでなく、働く者たちのプロ意識のv低さが際立っていたこの病院を改革するのが敏腕外科医の沢村一樹だ。患者を救うためには手段を選ばない沢村の清濁併せ呑みと、神の手のごとき手術ぶりが見どころとなっている。
そして第2の主役というべきなのが高嶋政伸だ。病院長・野際の甥で外科医だが、傲慢にしてエキセントリック。沢村を目の敵にしている。病院の後継者を自任するが、人望は全くない。先週も野際から「人格者になれ」と言われて、ガンジーの伝記を読み出す始末だ。
強気と弱気を繰り返し、叔母である野際に「卓(すぐる)ちゃん、がんばって」と励まされる姿は、「ずっとあなたが好きだった」(TBS、92年)の“冬彦さん”を想起させるほどエグい。
この高嶋の怪演は一見の価値がある。最近は元妻・美元とのドロ沼離婚裁判ばかりが目立ったが、そのうっぷんさえ役柄に投入しているかのようだ。これからますます加速するであろう沢村の超人化と高嶋の怪人化。2枚看板がこのドラマの強みだ。
(2013.07.23)
「孤独のグルメ シーズン3」 テレビ東京
昨年このコラムでも取り上げたテレビ東京「孤独のグルメ シーズン2」が、ソーシャルテレビ・アワード2013の「日経エンタテインメント!賞」を受賞した。一見、ソーシャルメディアとの連動性は薄そうだが、ツイッターなどへの投稿が非常に多いというのだ。
この夏、堂々の「シーズン3」が始まった。主人公はお馴染みの井之頭五郎(松重豊)だ。個人の輸入雑貨商だが、仕事の描写はごくわずか。商談で訪れた町に実在する食べ物屋で、松重が一人で食事をするだけなのだ。
基本的には東京エリアが舞台だが、先週は伊豆急に乗ってのプチ出張。川端康成「伊豆の踊子」で知られる河津町でグルメした。食したのは名物のワサビを使った「生ワサビ付きわさび丼」だ。
カツオ節をまぶしたご飯に自分ですりおろした生ワサビを乗せ、醤油をかけて混ぜるだけの超シンプルな一品。しかし、松重の表情でその美味さがわかる。しかもそこに、「おお、これ、いい!」とか、「白いメシ好きには堪らんぞ〜」といった心の声がナレーションされると、見る側も俄然食べたくなってくる。
そう、このドラマのキモは口数が少ない主人公の台詞ではなく、頻繁に発する心の声、つまり「つぶやき」にあるのだ。いわば松重の「ひとりツイッター」ドラマであり、ソーシャルテレビ・アワードの受賞も納得だ。
(2013.07.30)