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Channel: 碓井広義ブログ
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北海道新聞に、『日高晤郎フォーエバー』の書評を寄稿

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<ほっかいどうの本>

「ラジオの話芸人」からの贈り物

川島博行著『日高晤郎フォーエバー』

 

千歳の大学に単身赴任していた頃、土曜になると自宅の部屋でSTVラジオの「日高晤郎ショー」を聴いた。読書から社会批評まで話題は多彩で奥深く、聴く人を飽きさせない。しかも「自分が語ることの責任は自分でとる」という気概に満ちていた。

東京に移ってからも道内テレビ番組のコメンテーターの仕事があり、この12年間、月に一度は札幌に来た。土曜の昼間、ほとんどのタクシーで「日高晤郎ショー」を聴くことができた。「ああ、晤郎さん、今日も元気だ」と思うのと同時に、確かに自分が北海道にいることを実感させてくれた。

晤郎さんが世を去って2年。この本は、「晤郎ロス」を抱えた人たちの特効薬となる。なぜなら、ページをめくれば晤郎さんの声が聞こえてくるからだ。本書の軸となるのは北海道新聞に連載された「私のなかの歴史」。聞き書きで、口調もそのままに、晤郎さん自身が「日高晤郎」を語り尽くす。

俳優や歌手時代の軌跡も興味深いが、やはりラジオという「場」を得てからが真骨頂だ。たとえば7割5分の人に嫌われても、「2割5分に好かれればOK」と言い切る。その上で「人に負けない勉強量で、いかにもちゃらんぽらんにやっているように聞いてもらう」。

またリスナーから届いた手紙も、「必ず上手に読む」が大原則。言葉による「最高の表現」を目指し、「絶対にラジオ話芸があると思う。それを突き詰めたい」と歩みを止めなかった。

テレビは共同のメディアだが、ラジオは私的なメディアだ。晤郎さんは、そのことを熟知していた。どこかにいる「皆さん」ではなく、ラジオの前の「あなた」に向って話していたのだ。本書は、そんな晤郎さんからあなたへの粋な贈り物である。

(北海道新聞 2020.05.31)

 


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