Quantcast
Channel: 碓井広義ブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 5568

「リモートドラマ」を全部見てわかった、「ドラマ」としての可能性

$
0
0

 

 

エンタメ危機の中、

「リモートドラマ」を

全部見て感じた「可能性」

 

新型コロナウイルスの影響で、新作ドラマの放送延期や制作中断が続いてきた。そんな中で目についたのが「リモートドラマ」だ。

いわゆる「3密」を避けるために、出演者やスタッフがスタジオやロケ先に集まることなく、遠隔撮影といった手法で作られたドラマのことである。

5月から6月にかけて、このリモートドラマが花盛りだった。それぞれに工夫し、独自性を打ち出していた全作品を総括してみたい。

 

本邦初! NHK『今だから、新作ドラマ作ってみました』

本邦初の「テレワークドラマ」といわれたのが、NHK『今だから、新作ドラマ作ってみました』だ。深夜に特別枠を設け、30分で完結する形式のドラマを、3夜で3本、放送した。

5月4日(月)第1夜「心はホノルル、彼にはピーナツバター」

5月5日(火)第2夜「さよならMyWay!!!」

5月8日(金)第3夜「転・コウ・生」

この3本の中で、最も面白く見られたのが、第3夜の「転・コウ・生」だった。タイトルの真ん中が「校」ではなく、「コウ」とあるのは、柴咲コウが出てくるからだ。

出演者は柴咲のほかに、ムロツヨシ、高橋一生という豪華メンバー。しかも、それぞれが「自分」を演じるというのが基本構造だ。

たとえば、最近だとWOWOWオリジナルドラマ『有村架純の撮休』がそうだったが、有村自身が「女優・有村架純」の役で出てくる。

あくまでもドラマなので全体はもちろんフィクションだが、演じるのも、演じられるのも「本人」であることで、見る側は妄想と言うか、想像力をかき立てられる。

このドラマの中の柴咲は「女優・柴咲コウ」役であり、ムロや高橋も同様に「本人」役だ。その上で、第3夜で展開されたのは、ズバリ「入れ替わり」だった。誰かと誰かの「中身」が入れ替わってしまう。

当然、思い出すのは、この4月に亡くなった大林宣彦監督の映画『転校生』だ。あの作品では、中学3年生の一夫(尾美としのり)と、転校生である一美(小林聡美)の中身、つまり2人の「魂」が入れ替ってしまった。

しかも、大林監督へのオマージュともいえる、こちらの「転・コウ・生」のほうは、もっと複雑だ。

まず、それぞれ自分の部屋にいた、柴咲とムロが入れ替わる。見た目は柴咲で中身はムロ。そしてムロの中身は柴咲。ムロときたら、柴咲の姿のまま「お着替え」などして、柴咲に思いきり叱られる。

また、外見がムロとなった柴咲は、ムロがレギュラー出演している、ネットの「ライブ配信」に、ムロとして出演しなくてはならない。

これだけでも笑えるのに、高橋が、なんと柴咲の愛猫・ノエルと入れ替わってしまう。ネコが高橋としてしゃべるのだ。PCの分割画面に映し出されるのは、柴咲、ムロ、高橋、ネコのノエルだが、それぞれ中身が違う。

さらに途中からは、この「入れ替わり」の組み合わせがランダムになったりして大混乱だ。どうすれば元に戻れるのか。いつまでこれが続くのか。3人にも、皆目わからない。

 

リモートドラマの「熱」

しかし、そんな状況の中で交わされる会話がふるっている。

「(新型コロナの影響で)もう放送できるもの、ないらしいよ」

「企画がOKでも、ロケが出来ないんだって」

「こっちも臨機応変じゃないとね」

「そうやってるうちに、新たな活路も」

「意識も社会も変わっていくかもね」

やがて、「明日は(高橋)一生として生きることにした」と柴咲。「僕も明日はコウとして生きる」と高橋。ノエルの姿をしたムロは「俺はどうするんだあ!」と叫ぶ。

また、そこからが凄い。「いっそ、ネコのままで動画配信、やっちゃおうか」とムロが言い出すのだ。「しゃべるネコ」によるライブ。柴咲も高橋も「(一緒に)出たい!」と絶叫。

確かに、コロナ禍で、エンタメ界も相当なダメージを受けている。だが、それでも、何か出来ることがあるのではないか。出来ない理由を挙げるより、出来る方法を考えよう。出来ることから、やってみよう。3人が、そんな気持ちになっていく。

ラストでは、「月がキレイだよ」と誰かが言い出し、3人と1匹は空を眺める。そこにあるのは「フラワームーン」。5月の満月だ。

見終って、「リモートドラマって、こういうこともやれるんだなあ」と、ちょっと嬉しくなってきた。

脚本は、『JIN-仁―』や『義母と娘のブルース』などの森下佳子。「自分」役であると同時に、「他人」役でもあるという、難しい芝居に挑んだ柴咲コウ、ムロツヨシ、高橋一生、それぞれが見事な大暴れだった。

第1夜、第2夜が、実際の社会状況に対して、やけに従順というか、いわば「ステイホーム啓発ドラマ」とでも言うべき内容になっていたこともあり、この第3夜で、リモートドラマの「熱」を感じられたことが最大の収穫だ。

 

NHKの第2弾、『リモートドラマ Living』

この後、NHKは第2弾として、5月30日(土)と6月6日(土)の深夜に、『リモートドラマ Living』(全4話)を放送した。

出演者は広瀬アリスと広瀬すず、永山瑛太と永山絢斗、中尾明慶と仲里依紗、そして青木崇高と優香の4組。つまり、実際の姉妹、兄弟、夫婦というペアだった。

毎回、タイトル通り、リビングルームが舞台で、そこに彼らがいる(優香は声のみ)。通常のドラマ作りのように役者をスタジオに集めるのは困難だが、本物の「家族」なら、「まあ、許されるだろう」といった判断らしい。

それぞれのペアが、「いかにも」「らしいなあ」と思わせる会話を展開する。また、この物語を書いている作家(阿部サダヲ)を登場させた設定も効いていて、それなりに楽しめた。脚本に坂元裕二を持ってきただけのことはある。

ただ、撮影方法はリモートだったかもしれないが、全体として普通のドラマを見ているような印象で、あえて「リモートドラマ」である必要があったのか、なかったのか。少しモヤモヤしたのも事実だ。

 

リモートで新作に挑んだ『家政夫のミタゾノ特別編』

そして民放では、5月29日(金)の『家政夫のミタゾノ特別編~今だから、新作つくらせて頂きました~』(テレビ朝日系)が、リモートドラマに挑戦していた。

主人公は女装の男性、家政夫の三田園薫(松岡)。派遣先の家庭が抱える秘密を暴き、いったんはその家庭を崩壊させるものの、最後には再生の道を示すというのが定型だ。今回は、その全てが見事にリモート画面の中で展開されていた。

ミタゾノが向かったのは、夫(音尾琢真)が出張中で、妻(奥菜恵)だけが居るという家だ。ところが、そこに妻の姿はなく、どこかへ消えていた。

一方、夫のほうは出張先の大阪ではなく、部下で愛人の女性(筧美和子)の部屋にいる。

リモート会議には画面の背景を偽装して参加していたが、ミタゾノの画策で愛人宅にいることがバレてしまう。

いわば「リモート慣れ」が生んだ悲劇というか喜劇で、音尾が緩急自在の快演で大いに笑わせてくれる。

しかも部下たちから「置物上司」と思われていたことも、愛人が計算ずくで接近したことも暴露されてしまう。仕掛け人は妻であり、夫が反省したことで一件落着かと思いきや……。

会社でも家庭でも、またリモートであろうとなかろうと、「大切なのは心の距離」というメッセージも鮮やかで、見ていて飽きないリモートドラマとなっていた。

 

リモートドラマの真打『2020年 五月の恋』

WOWOWオリジナルドラマ『2020年 五月の恋』(全4話、5月末から配信・放送)もリモート制作だが、純粋にドラマとして見応えがあった。

画面は完全な2分割だ。別々の部屋に男女がいる。スーパーの売り場を任されているユキコ(吉田羊)と、設計会社の営業マンであるモトオ(大泉洋)。2人は4年ほど前に離婚した元夫婦だ。

在宅勤務のモトオが間違い電話をしたことで久しぶりの会話が始まった。会話はあくまでもスマホを通してのもので、リモートドラマでよく見る、PCを使ったテレビ会議風の絵柄ではない。また全4話は、それぞれ別の夜の出来事だ。

第1話。ユキコは、家族へのウイルス感染を心配する同僚から、独身であることを「うらやましい」と言われ、傷ついていた。口先だけで慰めるモトオをユキコが怒る。驚いたモトオはしゃっくりが止まらなくなり、ユキコも苦笑いしてしまう。

第2話では、離婚の原因が話題となる。別れるかどうかの話し合いの中で、当時、モトオが言った「ユキちゃんはどうしたいの? それに従うよ」という言葉が決定的だったと告白するユキコ。

モトオが家庭でも会社でも、言い争いやけんかを避けるのは、子どもの頃に亡くした妹との辛い思い出が原因だったことが明かされる。

第3話。ずっと気になっていたのに、確かめることを避けていた話になる。現在、付き合っている相手がいるかどうかだが、2人とも不在だった。

そして最終の第4話では、モトオの在宅勤務が終わること、ユキコたちが弁当を届けている病院関係者への共感などが語られる。最後に2人の“これから”についてモトオから提案があり……。

 

紛れもない「ドラマの時間」

この2人のように、互いが別々の場所にいて話をする場合、表情も見えず、思っていることが伝わりづらい。誤解されないようにと言葉が過剰になったり、その逆になったりする。

しかし相手の顔が見えないから言える本音もある。目の前にいない分、少し優しくなれたりもする。

会話だけのドラマを駆動させるのはセリフ以外にない。本来、不自由であるはずの「リモートな日常」を梃子(てこ)にして、人の気持ちの微妙なニュアンスまで描いていたのは、脚本の岡田恵和(NHK連続テレビ小説『ひよっこ』など)の功績だ。

またドラマというより舞台劇、それも難しい一人芝居に近い構造だが、吉田も大泉も見事に演じていた。自身をキャラクターに溶け込ませ、緩急の利いたセリフ回しと絶妙の間で笑わせたり、しんみりさせたりして、「ドラマの時間」を堪能させてくれたのだ。

確かに「リモートドラマ」は緊急対応で、苦肉の策かもしれない。しかし平時以上の創造力が発揮された時、「ドラマ」というジャンルの地平を広げる作品が生まれる。そんな可能性を示す1本だった。

 


Viewing all articles
Browse latest Browse all 5568

Trending Articles