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朝日新聞で、「ハケンの品格」について解説

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「ハケンの品格」増したほろ苦さ 

きょう最終回

 

13年前の人気ドラマの続編「ハケンの品格」(日テレ系)が5日夜10時、最終回を迎える。“スーパー派遣社員”の活躍を描き、平均世帯視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区)は初回から2ケタをキープ。前作の売りだった「爽快感」を残しつつも、ほろ苦さが増したとの声も聞かれる。背景には派遣労働者が直面している現実がある。

主人公の大前春子(篠原涼子)は、気象予報士や1級左官技能士などあらゆる資格を持つという設定。前作に続き、今回も大暴れして他の派遣社員や会社のピンチを救うが、すっきりしない展開も多い。たとえば社員からセクハラされた派遣社員が春子に窮地を救われた後、「私、どうすればよかったんですかね」と尋ねると、春子は暗い顔で「わかりません、私はあなたじゃないので」などと返す。

契約が更新されない雇い止めの不安。休日が多いと月あたりの賃金が減るので食費を切り詰めないといけない。サービス残業や契約以外の仕事を指示されても断れない。社員食堂のカレーの価格が正社員よりも高い――。派遣社員の直面する現実が次々と描かれる。

労働者派遣は、派遣会社と雇用契約を結び、別の会社で働く間接雇用だ。総務省の直近の調査では、派遣社員は約142万人。ドラマで描かれるのは事務派遣といわれる分野で、圧倒的に女性が多い。

労働者派遣法の制定当初は、派遣労働者は「専門職」だという建前があった。だが、NPO法人「派遣労働ネットワーク」代表の中野麻美弁護士は、前作が放送された2007年は、皮肉にも専門職としての位置づけが小さくなり、より安い労働力として派遣先との一体化が進んだ時代だったと指摘する。

派遣法は15年、大きく改正された。改正以前は、専門的な仕事であればずっと同じ派遣先で働けるという建前があったが、今は派遣会社との雇用契約に期間がある場合、どの業種でも3年が上限だ。今年4月には、政府が掲げる「同一労働同一賃金」に関連する法律が施行された。派遣も対象だが、正社員と同じ待遇を求める権利が与えられたわけではない。ドラマでも「正社員と同じ仕事をすれば同じ賃金がもらえる」という派遣社員の希望が打ち砕かれる場面がある。

「前作は爽快で楽しめて、全部見た」と話す首都圏に住む派遣労働者の40代女性は前作の放送当時、正社員だった。今作は見ていない回がある。「『派遣はよそ者』『やりがいが無い』といった、派遣の立場をストレートに表現するセリフや場面がある。『派遣は正社員になれない人』という現実が描かれていて、昔と同じ気持ちではもう見られない」

こうした現実はドラマの世界観にも影響を与えている。テレビドラマに詳しいライターの田幸和歌子さんは、今作は時事ネタを盛り込むなど大企業や権力への批判のメッセージ性が強くなった一方、派遣社員が以前のように特別な存在として描かれなくなったとみる。「13年前に比べ、派遣のあり方に夢や希望を描きにくくなっているのでは」

元テレビプロデューサーでメディア文化評論家の碓井広義さんは、前作では強者として描かれた正社員も、今作では不安定な立場に置かれていると指摘。「以前は『弱きを助け、強きをくじく』として正社員を悪役にするわかりやすい展開で視聴者の留飲を下げたが、現代はそう単純ではない。そうした苦さもエンターテインメントに織り込み、物語に深みが増した」

この「苦さ」は制作者の意図したことなのか。脚本を担当する中園ミホさんは、今作の制作時に新型コロナウイルスの流行が重なったため、「意識的に明るく楽しいものを作ろうとした」と明かす。だが、前作から取材している派遣労働者に改めて話を聞く中で、待遇は改善されていないとも感じていたという。

周りを見ても、お金をかけて資格をとって頑張ったからといって給料が良くなってはいない。セクハラのエピソードも、告発した派遣社員は現実には次の就職先が減るだろうと考えると、どうしても爽快にはまとめられなかった。「なんとかすかっとする話にしようとしても、そこに着地させようとするとウソっぽくなってしまって、甘いハッピーエンドにはできない。それだけ世の中が厳しくなっているのかもしれないですね」【黒田健朗、編集委員・沢路毅彦】

(朝日新聞 2020.08.05)


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