Quantcast
Channel: 碓井広義ブログ
Viewing all articles
Browse latest Browse all 5568

「私の家政夫ナギサさん」 性別超えた「母性」の奥深さ

$
0
0

 

 

週刊テレビ評

「私の家政夫ナギサさん」 

性別超えた「母性」の奥深さ

 

多部未華子主演のTBS系連続ドラマ「私の家政夫ナギサさん」(火曜午後10時、18日で第7話)は、油断ならないドラマだ。いわゆる「お仕事ドラマ」でも「恋愛ドラマ」でもない。何しろ家政夫である「おじさん」がもう一人の主人公なのだ。しかも根底に置かれたテーマは「母性」である。

相原メイ(多部)が幼稚園児の頃、将来の夢は「お母さんになること」だった。しかし、それを母親(草刈民代)にひどくしかられた。

「そんな夢、やめなさい。お母さんはね、その辺の男たちよりずっとできた。でも女の子だから、お母さんにしかなっちゃダメって言われたの。メイはばかな男より、もっと上を目指しなさい。お母さんになりたいなんて、くだらないこと二度と言わないで」と。

大人になったメイは、製薬会社のMR(医薬情報担当者)に。母親の期待に応えようと、「仕事がデキる女性」を目指して頑張ってきた。現在もプロジェクトのリーダーとして部下を率い、責任ある仕事をしている。

ただし、いつも疲れ切って帰宅しているから一人暮らしのマンションは散らかり放題で、食生活もいいかげんだ。そんなメイを心配した妹の唯(趣里)が、優秀な「家政夫」の鴫野(しぎの)ナギサ(大森南朋)を送り込んできた。

当初は自分の部屋に「おじさん」が出入りすることに抵抗したメイだったが、整った室内とおいしい食事、ナギサの誠実な人柄にも癒やされていく。まるで家に「お母さんがいるみたい」と思うのだ。

メイは恋愛したくないわけでも、結婚したくないわけでも、子供を持ちたくないわけでもない。一方で、今の生活は充実しているし、無理もしたくない。いや、できれば仕事を含む「現在の自分」をキープしたいと思っている。

この辺り、多部がアラサー女子の本音とリアルを等身大で演じて見事だ。しっかり者のようでいて、少し抜けたところもある、愛すべき「普通の女性」がそこにいる。

また、ナギサという人物も興味深い。メイが「なぜ家政夫などしているの?」と失礼な質問をすると、「小さい頃、お母さんになりたかったのです」と驚きの答え。それは例えではなく、本当の話だった。ハードなイメージの大森だからこそ、その繊細な演技が光る。

メイの母親が「くだらない」と言っていた「お母さん」。ナギサにとって家政夫は夢の実現かもしれないのだ。背後には男性の中の「母性」という、これまた複雑なテーマが潜んでいる。

「大切な人」を守りたい。ずっと笑顔でいてほしい。それは性別を超えた「究極の母性」なのか。このドラマ、まだまだ奥が深そうだ。

(毎日新聞 2020.08.15)


Viewing all articles
Browse latest Browse all 5568

Trending Articles