「SANKEI EXPRESS」に掲載された「明日、ママがいない」に関する記事で、コメントしています。
「明日ママ」波紋 ドラマの表現どこまで
日テレ放送継続 一部スポンサーはCM見合わせ
児童養護施設を舞台にした日本テレビ系の連続ドラマ「明日、ママがいない」をめぐる騒動が収まらない。施設の描写や主人公のあだ名が「誤解や偏見を生む」として、全国児童養護施設協議会などが放送中止を求めたのに対し、日テレは放送を継続。一部スポンサーがCM放送を見合わせるなど波紋は広がっている。フィクションの表現はどこまで許されるのか。
犬扱いに唖然
「おまえたちはペットショップの犬と同じだ」。ドラマを見た東京都内の児童養護施設の男性職員(40)は、現実とあまりにかけ離れた内容に唖然(あぜん)とした。
ドラマは児童養護施設「コガモの家」が舞台。1月15日放送の第1話では、人気子役の芦田愛菜(まな)さん演じる主人公たちを冷酷な施設長がののしり、里親にもらわれるために「庇護(ひご)欲をそそるよう」泣くことを強いる。子供を平手打ちする場面も描かれた。「高校教師」など問題作を手掛けた野島伸司さんが脚本監修を務めている。男性職員は「ドラマで取り上げられるのは意味があるが、あまりにも配慮不足。施設が一般にあまり認知されていない現状では誤解を招くだけだ」と話す。
さらに、親が育てられない子供を匿名で受け入れる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)を設置する熊本市の慈恵病院は、「ポスト」という主人公のあだ名を強く批判する。
赤ちゃんポストに預けられた主人公は、母を憎むゆえ名前を捨てて「ポスト」を名乗っているとの設定だ。「子供たちは冗談でも『ポスト』と言われたらつらいはず。子供を守るため、あだ名変更は譲れない」と蓮田健産婦人科部長。
慈恵病院は放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議を申し立てている。
求められる想像力
これに対し、日テレは「ドラマは子供たちの視点から『愛情とは何か』を描くもの」と主張。「指摘は真摯(しんし)に受け止め、今後も内容には細心の注意を払う」として放送を継続している。22日放送の2話では、あだ名はそのままで、子供を犬に例える表現もあったが、施設長は人間らしい一面をのぞかせ、コミカルな場面も増えた。だが「視聴者や関係者の意見を考慮した」としてCMを見合わせるスポンサーが相次ぎ、テロップでの社名表示も省かれるなど、取り巻く状況は厳しい。
「誰もが発信でき、即時に広がるインターネットの発達で、作り手はかつてより視聴者の反応に対する想像力が求められるようになっている」と話すのは上智大の碓井広義教授(メディア論)。「(模型などを使った)『あまちゃん』の震災の描写に比べれば、思慮が足りなかったのは間違いない」と苦言を呈する。
一方で碓井教授は「日テレは踏ん張ってでも放送を続けるべきだ」と言う。「これはドラマでありデフォルメは明らか。始まったばかりで、作品としてはまだ評価できない。その段階で断罪していては、フィクションの世界がどんどん不自由になる」と危惧している。
【「明日、ママがいない」の経過】
2013年
12月 全国児童擁護施設協議会が日本テレビ側に改善を要求
2014年
1月15日 第1話放送
1月16日 慈恵病院(熊本市)が日テレに放送中止を要請すると発表
1月20日 日テレが放送継続を慈恵病院に連絡。同協議会が日テレに抗議文を送付
1月21日 同協議会が厚生労働省で記者会見し、放送内容の改善を求める
1月22日 慈恵病院が放送倫理・番組向上機構(BPO)に審議申し立て。幸山政史熊本市長が会見で内容改善を要請。第2話放送で番組スポンサー3社がCM放送見合わせ
1月24日 新たにスポンサー2社が第3話からのCM放送の見合わせ決定。
(SANKEI EXPRESS 2014.1.26)