15日、JCASTニュースに掲載された「佐村河内問題」の記事の中で、2002年放送のNHKスペシャル「奇跡の詩人」に触れた私の論評が引用されています。
http://www.j-cast.com/2014/03/15199091.html?p=all
佐村河内問題で再び注目集める「奇跡の詩人」
NHKの「障害者感動物語」手法に疑問の声
「両耳の聞こえない天才作曲家」と言われてきた佐村河内守さん(50)の別人作曲問題、および全ろうの嘘が発覚して以降、インターネット上ではある人物の名前が度々あがるようになった。
2002年にドキュメンタリー番組「NHKスペシャル」(Nスペ)で紹介された後、疑惑の目を向けられることとなった、「奇跡の詩人」とまで言われたHRさん(仮名)だ。佐村河内さんもNスペに登場している。共通するのは「障害者の創作活動を巡る感動ストーリー」という描き方で、これに疑問を投げかける人もいる。
「佐村河内氏の件でちょっと思い出しちゃった」
2002年4月28日放送のNスペで紹介されたHRさんは、当時11歳だった。重度の脳障害を抱え、立ち上がることも話すこともできないが、ドーマン法と呼ばれる民間療法のリハビリに取り組む中で、文字盤を指して自らの意思を言葉にすることが可能になったという。
とはいえ、母親の手助けが必要で、母がHRさんの手の甲をつかみ、もう片方の手で文字盤を動かしながら「補助」を行っていた。
番組はHRさんが文字盤を通して生み出す感性豊かな詩、その奇跡的な創作活動に焦点を当て、大きな反響を呼んだ。約1週間後に発売された本も話題になった。
だが同時に、視聴者から疑問の声も相次いだ。ネット上を中心に、母親がHRさんの手を動かしているようにみえること、文字列を覚えているとはいえ、固定されていない文字盤をHRさんがよそ見をしながら指していることなど、さまざまな点が指摘されたのだ。
NHK側は「信憑性を否定する事実はないと判断した」などと反論したが、疑惑が完全に払拭されることはなく、02年6月には検証本も出版された。
それから10年以上が経った今、再び関心を集めることとなった。2013年3月に同じくNスペで「魂の旋律〜音を失った作曲家〜」として紹介された佐村河内さんが「偽のベートーベン」だと明らかになって以降、ネット上にはHRさんと佐村河内さん、または両番組に言及する書き込みがいくつも出てきたのだ。
HRさんを巡る真相は未だ明らかになっていないものの、連想する人が少なくなかったようで、「佐村河内氏の件でちょっと思い出しちゃったので…この坊やは元気に暮らしているのかなぁ」「今回の佐村河内さんも、障害者を感動ネタの売りにしてるところが悲しい」「今からでも『奇跡の詩人』の検証番組をするべきでしょう」「奇跡の詩人のほうがよっぽどまずいと思う。みんなあれを忘れてるのか?」といった声が目立つようになっている。
番組をリアルタイムで見たという茨城県阿見町議会議員も「今回(佐村河内さん)の経緯も、大変に似た事情があったように感じます。私は二度までも、安い感動の涙を流してしまいました。しっかりせよNHK、しっかりせよ放送人と言いたい」とブログに綴った。
「制作者は虚実に敏感であるべきだし、冷静で客観的な目を持つべきだ」
両番組に共通する「障害者の創作活動を巡る感動ストーリー」という描き方に、制作側の視点から疑問を投げかける識者もいる。
上智大学文学部新聞学科教授の碓井広義さんは2014年3月10日、ビジネスジャーナル連載記事の中で、全ろうの佐村河内さんが作曲するという肝心なシーンがないまま、番組を成立させたことを問題視し、「なぜそうなったのか。事実よりも、『現代のベートーベン』という『物語』と、それがもたらす『感動』を優先させたためだ」と指摘する。
その上で、HRさんの番組を引き合いに出し「『こうあって欲しい』という母親の切なる願いは伝わってきたが、視聴者側が事実として受け止めるには無理があった。同時に、目の前で見ているはずの制作者はどう判断していたのかが気になった」と振りかえり、「重度脳障害の少年詩人と、被爆二世で全聾の作曲家。どちらも美談になりそうな題材であり、視聴者の感動を呼ぶドラマチックなストーリー性がそこにある。だが、そんな時こそ制作者は虚実に敏感であるべきだし、冷静で客観的な目を持つべきだ」と訴えた。
ちなみに大人になったHRさんは現在何をしているのか。2004年以降は目立った本の出版もないようだが、自身のホームページによると2011年に寺院で開催した講演会の様子が伝えられている。また最近では2014年1月のスピリチュアル系雑誌「スターピープル」に登場し、「肉体を消し、また肉体ごとテレポーテーションする」という人と対談を行っている。
(JCASTニュース 2014.03.15)