先日、産経新聞で、NHK朝ドラについて解説した記事の全文が、
産経のサイトにアップされました。
以下に転載しておきます。
相乗効果が生む 朝ドラ絶好調
進取の気風、良質な作品、
視聴習慣、ネットで話題
NHK連続テレビ小説(朝ドラ)がヒットを続けている。「あまちゃん」「ごちそうさん」に続いた「花子とアン」は9月27日に放送終了し、全話平均22・6%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)と、過去10年の朝ドラで最高視聴率を記録。その後、始まった「マッサン」も1週目から毎回20%台を連発し、朝ドラの“常勝ぶり”を見せつけている。その理由はどこにあるのか-。
■BSでも過去最高
「『花子とアン』は大変よく見ていただいた。『ごちそうさん』の平均22・4%を上回り、BSプレミアム放送分も平均6・8%と過去最高。俳優さんたちの幅広い演技が魅力だったと思う」
NHKの籾井勝人(もみい・かつと)会長は今月2日の定例会見で、「花子とアン」の視聴率を満足そうに振り返った。
実家が福岡県で炭鉱を経営していた籾井会長にとって、劇中に登場した福岡の炭鉱王「嘉納伝助」には特に思い入れが強かったようだ。「波瀾(はらん)万丈の半生を送った吉高由里子さん演じる花子、仲間由紀恵さん演じる蓮子…」と、出演者と主要登場人物を紹介するなかで、伝助については「非常に人気を博しました」と付け加えるのを忘れなかった。
■ダブルヒロインの妙
「花子とアン」はカナダの女性作家、モンゴメリの「赤毛のアン」を翻訳した村岡花子の生涯を描きつつ、家族や友人たちの苦難と成長も描かれた。蓮子や伝助に加え、花子の両親や兄妹、幼なじみ、女学校編での外国人教師や同窓生…。魅力的な登場人物によるサイドストーリーも大きな見どころだった。
上智大の碓井広義教授(メディア論)はこう指摘する。
「特に仲間さん演じる蓮子の存在が出色だった。朝ドラに『白蓮事件』という不倫スキャンダルを取り入れ、正統派ヒロインである花子と、異端といえる蓮子を対照的に並べてみせた。正統と異端、日常と冒険のブレンド加減が絶妙で、2人の『ダブルヒロイン』が車の両輪のように存在感を発揮したことが作品の成功につながった」
■ドラマを盛り上げる「仕掛け」
ただ、ドラマ終盤では、ある重要な役柄をめぐって視聴者の賛否は分かれた。放送最終週、花子が翻訳する「赤毛のアン」刊行を決める出版社社長を、演技経験のない脳科学者の茂木健一郎さんが演じた。茂木さんの演技はインターネットを中心に注目を集め、ツイッターなどでは「棒読みすぎる」といった否定的な意見も上がった。
碓井教授は「茂木さんに罪はないが…」と前置きしたうえで、「作品を見続けてきた視聴者にとっては非常に重要な場面。物語をきちんと着地させるため、演技経験のある人を起用すべきだった。好調を受けた制作陣の『遊び』だったとすれば的外れで、もっと前の段階でやるべきだった」と批判する。
一方、理解を示す意見もある。ドラマ評論家の成馬零一さんは「茂木さんの演技を『あさイチ』や『スタジオパークからこんにちは』で出演者たちが話のネタにするなど、他の番組も巻き込んだ形でドラマを盛り上げる仕掛けになっていた」と指摘する。実際、茂木さん出演後の「あさイチ」では、NHKの柳沢秀夫解説委員が「なんで茂木さんなの?」と疑問視。有働由美子アナウンサーがフォローに回る“珍場面”もあった。
最近は、朝ドラ放送後の「あさイチ」冒頭で有働アナたちがドラマの感想を言い合うことがお約束となっており、ドラマ出演者が番組宣伝も兼ねて昼のトーク番組に出演することも多い。朝ドラや大河を軸に他番組も連動していくNHK特有の番組編成が作品の熱気を高めているのは確かだろう。
■「マッサン」も「流れ」に乗るか
それにしても、近年の朝ドラがここまで支持を集めるのはなぜなのか。
成馬さんはこう分析する。
「朝ドラは低調だった時期もあるが、『ゲゲゲの女房』の頃から良質な番組作りが再評価され、『カーネーション』や『あまちゃん』でコアなファンも得た。朝ドラへの関心の高まりがマスメディアやネットで話題になり、より注目を集める相乗効果になっている。毎日15分という短さも見やすく、視聴習慣が根付いてきている」
初の外国人ヒロインを迎え、国際結婚した夫婦がウイスキー造りに奮闘する最新作「マッサン」も堅調なスタートを切っている。
碓井教授は「帰国早々に母親と対立するという大胆な導入や、ヒロインだけでなく『夫婦』を軸に物語を描こうとしている点など注目点が多く、『マッサン』にも期待したい。朝ドラ人気はしばらく続くのでは」と予想する。
「ヒロインの成長物語」を基調としながらも、ドラマ制作の新たな試みを盛り込んでいく出演者と作り手のチャレンジ精神こそが、朝ドラ人気最大の理由なのかもしれない。(三品貴志)
(産経新聞 2014.10.07)