北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。
今回は、NHK朝ドラ「マッサン」について書きました。
朝ドラ「マッサン」
トライ功奏 上々の序盤戦
この秋始まったNHK朝の連続テレビ小説「マッサン」はいくつもの挑戦を行っている。まず主人公が男性であることだ。女性の一代記を基本とする朝ドラでは1995年度の「走らんか!」以来19年ぶりのトライとなる。
しかも、「花子とアン」に続いて実在の人物である。ニッカウヰスキーの創業者・竹鶴政孝(ドラマでは亀山政春)だ。近年、ビールや焼酎などと比べやや影の薄かったウイスキーにスポットを当てた上に、サントリー(当時は壽屋)ではなくニッカという選択がマニアックで渋い。「マッサン」は国産ウイスキーの製造に挑む男たちを描いた、「プロジェクトX」的企業ドラマでもある。
そして今回の目玉が、朝ドラ史上初の外国人ヒロインである。政孝がリタ夫人(ドラマではエリー)を伴って帰国したのは1920年(大正9年)。妻は夫を支えながら戦中・戦後を生きぬいた。このドラマの主人公は確かにマッサン(玉山鉄二)だが、実質的にはエリー(シャーロット・ケイト・フォックス)と二人三脚の”夫婦物語”なのだ。
ドラマの立ち上がり段階で際立っていたのが、国際結婚に断固反対するマッサンの母親(泉ピン子)の存在だった。この設定は実に巧妙だ。なぜなら、2人の前に立ちはだかり、「外国人の嫁なんて」と怒る母親が、視聴者の「外国人のヒロインなんて」という違和感や反発心を代弁する形になったからだ。
エリーを拒む“鬼母”のおかげで、慣れない日本で頑張る外国人妻と、同じく日本のドラマに初挑戦する外国人女優が重なって見えてきた。結果、視聴者は初の外国人ヒロインを受け入れ、応援する側に回ったのだ。
また、早々に大阪へと舞台を移した「マッサン」だが、今度はサントリー創業者の鳥井信治郎をモデルとした鴨居欣次郎(堤真一)が登場してきた。玉山が演じるマッサンも、シャーロットが扮するエリーも基本的には生真面目な性格であり、主人公としてはやや地味に見える。2人を脇から盛り上げていく存在が必要だ。
それが当初は泉ピン子であり、続いてシリアスな役からユーモラスな役まで幅広く演じられる堤真一になるわけだ。作り手側としては、堤が主役を喰うくらい思いきり暴れることでドラマ全体が盛り上がるという計算だろう。鴨居社長の強烈なキャラクターにはそんな狙いが見える。
二枚目俳優・玉山が好演する二枚目半のマッサンも含めた様々なトライが功を奏し、上々の出来の序盤戦となっている。
(北海道新聞 2014年11月04日)