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Channel: 碓井広義ブログ
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北海道新聞で、NHK朝ドラ「あまちゃん」について

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北海道新聞に連載している「碓井広義の放送時評」。

今回は、NHK朝ドラ「あまちゃん」について書きました。


トリプルヒロインが光る 朝ドラ「あまちゃん」
NHKの連続テレビ小説(以下、朝ドラ)が始まったのは1961年。今期の「あまちゃん」は88作目にあたるが、半世紀以上におよぶ歴史を塗り替える、画期的な新作と言っていい。なぜなら、過去に例のない「トリプルヒロイン」の朝ドラだからだ。

確かに軸となるヒロインは天野アキ(能年玲奈)だ。しかし、その母親・春子(小泉今日子)も、祖母・夏(宮本信子)も脇役ではない。それどころか、3人が3世代ヒロインとして同格で描かれ、物語の中で拮抗しているのだ。「あまちゃん」の面白さ、楽しさの源泉はそこにある。

特に、このドラマの小泉は必見だ。24年前に聖子ちゃんカットで家出してから高校生の娘を連れて帰郷するまでの“女の軌跡”が全身から漂っている。しかもそれが元アイドルにして現在は個性派女優の小泉と重なって見えるのだ。ノーメークに近い顔。ややふっくらした体型を包む服装。そしてスナック「梨明日(りあす)」のカウンターの中から「あんた、本当にわかってんの!」とタンカを切る凄み。昨年の「最後から二番目の恋」(フジテレビ)でも光っていたが、今回の小泉は40代女性としてよりパワーアップしている。

能年の天然、小泉のヤンキー、宮本のガンコと、それぞれの素の持ち味が十二分に生かされているのは宮藤官九郎(くどうかんくろう)が手がける脚本のおかげだ。劇団「大人計画」の役者として出発し、やがて演出・脚本でも頭角を現した宮藤。ドラマ「池袋ウエストゲートパーク」「木更津キャッツアイ」などで見せたコメディのセンスが朝ドラという舞台でフル稼働している。すでに流行語になっている「じぇじぇじぇ」をはじめ、登場人物たちのユーモラスな会話で全体のトーンが明るい。得意の小ネタも繰り出してくる。

また、「あまちゃん」が試みているのは母娘3代の家族論だけではない。過疎の町とその再生という地域論。海女、漁師、潜水士などを通じての仕事論。さらに地元アイドルとネットやテレビの関係を探るメディア論まで物語の中で展開している。この辺りは、話題作「ハゲタカ」(07年)を制作した訓覇(くるべ)圭チーフ・プロデューサーの存在が大きい。ドラマが時代や社会を映す鏡であることを熟知しているのだ。

ドラマの設定は2008年だが、今後、東日本大震災を物語に取り込むプランもあるという。重過ぎるほどの現実が、このトリプルヒロインを通じてどう描かれるのか注目だ。

(北海道新聞 2013.05.13)

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