回顧2014 放送
問われた「公共性」
「公平」要請、選挙扱う時間が激減
改めてテレビの公共性が問われた1年だった。
1月、就任会見に臨んだNHKの籾井勝人会長は「政府が右と言うことを左と言うわけにはいかない」「(従軍慰安婦は)戦争をしているどこの国にもあった」などと発言。公共放送のトップとして適格性が問われた。配下の理事から日付の入っていない辞表を集めた姿勢にも疑問符が付き、国会がNHKの予算を全会一致で認めてきた慣例が、8年ぶりに崩れた。
経営委員の百田尚樹氏も選挙で特定候補の応援演説に立つなど、政治的な発言を繰り返した。立場を超えて支えられるべきNHKの根幹は、なお揺らいでいる。
年末の衆院選では、自民党が在京キー局に報道の「公平」を求める文書を送っていたことが明らかになった。「世間が無関心で視聴率が取れない上に、公平性にクレームが付くリスクがあるなら無理をしない」(民放幹部)と、情報番組を中心に選挙を取り扱う時間は激減し、解散から1週間では前回衆院選の3分の1に。本来は報道という使命を果たすために公共の電波利用を許されているテレビ局の姿勢としては、首をかしげる事態だ。メディアに対して注文を繰り返す安倍政権とテレビのありようは、予断を許さない。
■ネット活用の流れ
テレビとインターネットの垣根が低くなった1年でもあった。6月に放送法が改正され、NHKは放送とネットの同時送信を試験的に始める方針を明らかにした。民放も見逃したドラマを無料で見られるネットサービスを各自で始めたほか、在京5社が共同のサイト開設を検討し始めた。
高精細の4K試験放送も6月に始まり、2020年の東京五輪には8Kも含めた視聴環境を整えるロードマップが総務省主導でまとめられた。ラジオではAM局がFMでも同じ放送を流し始めた。
■視聴率、日テレ独走
視聴率争いでは、昨年2冠のテレビ朝日が息切れし、視聴習慣を育てた日本テレビが独走でゴールを迎える。低迷のフジは「笑っていいとも!」の32年の歴史に終止符を打った。
個別の番組では、ゲームやグッズと連動したアニメ「妖怪ウォッチ」(テレビ東京)が大ブームに。ドラマでは昨年の「半沢直樹」(TBS)のような特大ヒットは生まれなかったが、続編が反響を呼び、米倉涼子主演の「ドクターX」(テレビ朝日)は最終回まで視聴率20%超を記録。木村拓哉の「HERO」(フジテレビ)とともに、組織にありながら「自立した個」を見せつけて喝采を浴びた。
NHKの朝ドラ「花子とアン」も、さまざまな話題を提供してドラマ界の中心に。脚本家山田太一が「時は立ちどまらない」(テレビ朝日)で、東日本大震災をフィクションで描くことに挑戦し、各賞を受けた。
山田と1983年から「ふぞろいの林檎たち」を手がけ、「ドラマのTBS」を作った大山勝美と、日本テレビでバラエティー分野の開拓者だった井原高忠という伝説的プロデューサー2人が世を去った。(中島耕太郎)
■私の3点(敬称略)
<碓井広義(上智大教授、放送批評懇談会理事)>
▲「さよなら私」(NHK)(1)
▲「時は立ちどまらない」(テレビ朝日系)(2)
▲「KAZEOKE チャンピオン大会スペシャル」(WOWOW)(3)
(1)奇抜な設定で40代女性の微妙な心理を丁寧に描いたベストドラマ。(2)被災者の「支援される側の心の負担」と向き合った秀作。(3)同じ発端と結末で異なる物語を競作する企画の勝利。
<中町綾子(日本大学教授、テレビドラマ分析)>
▲「時は立ちどまらない」(テレビ朝日系)(1)
▲「ごちそうさん」(NHK)(2)
▲「私という運命について」(WOWOW)(3)
(1)異なる立場にある人と共に生きる現実を、(2)暮らしの中にある命の根源を、(3)自分のひとつひとつの選択のかけがえのなさをしっかりとみつめさせた、そんなそれぞれのドラマです。
<桧山珠美(テレビ評論家)>
▲「笑っていいとも!グランドフィナーレ 感謝の超特大号」(フジテレビ系)(1)
▲「LIFE!~人生に捧げるコント~NHKなんで」(NHK)(2)
▲「テレビ東京開局50周年特別企画 50年のモヤモヤ映像大放出! この手の番組初めてやりますSP」(テレビ東京系)(3)
(1)国民的番組の最後は盛大に。タモリが再評価された。(2)「NHKのバラエティーは低俗」という批判にコントでお返し、制作者の矜持(きょうじ)を見た。(3)50年前からブレることなく独自路線を追求するテレ東。今日の躍進は当然か。
(朝日新聞 2014.12.20)