「独居老人」ではない。
「特養老人」でもない。
「独特老人」である。
とんでもないジイサマたちが語る、とんでもなく面白い話のオンパレード。
以下、週刊新潮に書いた書評です。
後藤繁雄・編著 『独特老人』
ちくま文庫 1620円
著者によれば、独特とは独りで特別、光速で回転する独楽のような人。奇、狂、偏の三つが揃った人物だ。
本書に並ぶのは、森敦にはじまる28人。なぜか女性はいない。そして水木しげる、鶴見俊輔など4人を除く全員がすでに世を去っている。しかし彼らの言葉はもちろん、その“在りかた”自体が今も刺激的だ。
作家の埴谷雄高は「今までの全人類史を御破算にするくらいのつもりで誰かやらないとだめなんですよ」と言って、『死霊』を書き続けた。
棋士の升田幸三は「勝負というのは、まず負けないこと。第一は勝つことじゃない」の信念を終生変えることはなかった。
破格にして前衛、自由で風狂な男たちの肖像である。
山本朋史
『ボケてたまるか!~62歳記者認知症早期治療実体験ルポ』
朝日新聞出版 1296円
雑誌記者である著者が突然、軽度認知障害と診断される。取り組んだのは早期治療としての認知力アップトレーニングだ。個人として自費で診療を受けながら、雑誌の連載で報告を続けてきた。独特のユーモアと緊張感にあふれた、「症状を遅らせる」挑戦の一部始終だ。
最相葉月 『れる られる』
岩波書店 2052円
シリーズ「ここで生きる」の一冊。『絶対音感』などのノンフィクション作品で知られる著者の連作エッセイ集だ。人はいかにして生まれ、誰に支えられ、なぜその生を断ち切るのか。六つの「動詞」を起点に、世界のあちらとこちら、その境目を探っていく。
(週刊新潮 2015.03.12号)