NHK「朝ドラ」はなぜ見られるのか…
5作連続「20%超え」から浮かぶ
“勝利の方程式”
NHK連続テレビ小説(朝ドラ)が相変わらず好調だ。3月に放送終了した「マッサン」は全話平均視聴率21・1%を記録し、「あまちゃん」から5作連続で平均20%超を達成。バトンを受け取った「まれ」は雰囲気の異なる現代劇だが、連日20%超えをたたき出し、快調な滑り出しを見せている。朝ドラブームはいつまで続くのか。
■応援したくなる外国人ヒロイン
完結した「マッサン」は、ニッカウヰスキー創業者の竹鶴政孝と妻のリタをモデルに、日本初の国産ウイスキー作りに挑むマッサン(玉山鉄二)とエリー(シャーロット・ケイト・フォックス)の半生を描いた物語。朝ドラ初の外国人ヒロイン起用が話題となり、国産ウイスキーにも注目が集まった。
上智大の碓井(うすい)広義教授(メディア論)は、「マッサン」について、こう振り返る。
「外国人ヒロインの起用が当たりました。たどたどしい日本語で朝ドラに挑戦するシャーロット自身の“はじめて物語”と、ドラマの役柄がうまくシンクロし、多くの視聴者を応援したくなる気持ちにさせた。また、夫婦の愛情物語と、ウイスキー作りをめぐる企業ドラマ的要素がバランスよく織り交ぜられていたのも良かったですね」
ドラマ放送に伴い、国産ウイスキー各メーカーが発売当時の味を再現した復刻版を売り出したり、北海道の余市をはじめとする舞台が地域振興に乗り出したりといった余波も。業界や地域の振興にも大きな影響を与えた「マッサン」は、視聴率ともども、成功したといえそうだ。
■「梅ちゃん先生」で20%台回復
朝ドラの平均視聴率は平成15年の「こころ」(21・3%)以降、伸び悩み、20%台を突破できない作品が続いていた。しかし、24年の「梅ちゃん先生」(20・7%)で18作ぶりに20%台へ回復すると、その後の「純と愛」(17・1%)で若干下がったものの、「あまちゃん」(20・6%)以降は堅調だ。
以来、「ごちそうさん」(22・3%)▽「花子とアン」(22・6%)▽「マッサン」(21・1%)-と推移。中でも「花子とアン」は、過去10年の朝ドラで最高の平均視聴率を記録し、話題となった。
■朝ドラヒットの“方程式”
朝ドラ好調の理由は各所で分析されているが、ヒットの“方程式”を大きくまとめると、以下のような点が挙げられるだろう。
(1)毎朝(日曜除く)15分間という放送形態が、「夜の1時間ドラマと比べて見やすい」と再評価されている。昼の再放送や、BSプレミアムでの前倒し放送・1週間分放送など、見逃しても追いつけるチャンスが多く、視聴習慣の定着につながっている。
(2)ヒロインを中心とする出演陣のキャスティングが絶妙。特に「いい味」を出す脇役が注目されるケースが増えており、「あまちゃん」の橋本愛をはじめ、朝ドラをきっかけにブレークした若手俳優が相次いでいる。また、「ごちそうさん」のキムラ緑子や「花子とアン」の吉田鋼太郎など、ベテランが脚光を浴びるケースも多い。
(3)朝ドラ放送直後の情報番組「あさイチ」でアナウンサーらが朝ドラの感想を語ったり、ドラマ出演者が「スタジオパークからこんにちは」などのトーク番組に出演したりすることで、番組の宣伝や盛り上がりを後押ししている。「マッサン」終盤では、「あさイチ」で有働由美子アナや出演者がドラマの展開に涙を流したことが注目を集めた。
(4)上記の理由から朝ドラをめぐる話題が継続的に発信され、インターネットのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)でも拡散。知人らと感想を共有する面白さが生まれ、リアルタイム視聴につながるといういい循環が生じている。
こうした点に加え、碓井教授は「朝ドラの基本はヒロインや家族の成長物語。そうした朝ドラらしさをNHKが大事にしつつ、作品の作り方や見せ方を進化させてきたことが実を結んでいるのでは」と分析する。
「刑事ものや医療ものが代表的ですが、民放ドラマは、登場人物を特殊な状況に追い込む非日常を扱うことが多い。これに対し、朝ドラは一種の『ホームドラマ』。半年間をかけて、視聴者に『知っている家族』として定着させていくスタイルが、共感を呼んでいるのでしょう」
■「まれ」に漂う「あまちゃん」らしさ
それでは、好調なスタートを切った「まれ」は、どうだろう。
石川・能登地方を舞台に、「夢アレルギー」のヒロイン、希(まれ)が、ケーキ職人を目指して成長していく物語。序盤では、ヤマっ気のある父親に振り回される幼年期から高校時代をへて、輪島市役所に就職した。
碓井教授は「戦時中も扱った『花子とアン』や『マッサン』にいい意味での重さがあったのに対し、『まれ』は全体的に雰囲気が明るく、肩の力を抜いて見られる。ヒロインがはじめは『夢』に抵抗するというひとひねりがあって、物語が平板にならないよううまく工夫されている」と話す。
田中裕子や田中泯といった祖父母代わりをはじめとする周囲の配役に始まり、実力派からお笑い芸人まで緩急を付けた配役からは、最近の朝ドラらしさがにじむ。
碓井教授は、作中のユーモラスな演出や地方の風景や暮らしを強調していることについて、「あまちゃんから学んでいる感じがする」と指摘。「オープニングや語りも含め、隅々まで意識が行き届いていて、ぜいたく感がある」と称賛する。
「大河ドラマは心配になることもあるが、朝ドラは次の企画(*波瑠が主演の『あさが来た』)などを見ても、しばらく好調なのでは」と碓井教授。
すでに“独走態勢”に入ったというべきか。(三品貴志)
(産経新聞 2015.05.05)