NHKドラマ10「さよなら私」
産経ニュースで、NHKの連続ドラマについて解説しました。
【TVの潮流】
NHK連ドラは週7作!
見応えある名作も多いが、視聴率は…
NHKのドラマといえば、連続テレビ小説(朝ドラ)や大河に注目が集まりがちだが、民放に負けず劣らず、夜の連続ドラマ制作にも力を入れている。だが、特に最近は国民的2大ドラマの陰に隠れ、作品が多い割に、後世に名を残すようなインパクトのある作品が少なく、視聴率上でも目立った結果を残せていない-。そんな仮説をもとに、現在のNHKの“ドラマ力”を検証してみると…。
7作が同時進行
NHK総合テレビでは、火曜午後10時「ドラマ10」▽木曜午後8時「木曜時代劇」▽土曜午後10時「土曜ドラマ」-の3つがドラマ枠として設けられている。さらにBSプレミアムでは、日曜午後10時「プレミアムドラマ」と、火曜午後11時15分「プレミアムよるドラマ」が放送中だ。ここに朝ドラと大河を加えると、NHKだけでオリジナルの連ドラが7作も同時進行していることになる。
民放の場合、1クール当たりの新作連ドラは、系列局の作品を含めて4~6本程度。また、キー局系BS・CSでも毎クール、連ドラを制作しているわけではない。単発ドラマの存在もあるため単純には比較できないが、NHKは「日本一ドラマ制作に力を入れているテレビ局」という表現は大きく外れていないだろう。
土曜ドラマは名作・スタッフを輩出
それでは、肝心の中身はどうだろう。
例えば、「土曜ドラマ」枠で5月16日まで放送された作家、横山秀夫さん原作の警察ドラマ「64(ロクヨン)」。音楽グループ「電気グルーヴ」メンバーで俳優のピエール瀧さんがNHKドラマで初主演を務めたことで、注目を集めた。
上智大の碓井広義教授(メディア論)は「民放にはない意外なキャスティングが良かった。原作があり、来年には映画化もされるためドラマの評価は分かれるかもしれないが、登場人物たちの葛藤がきちんと表現されていて、見応えがあった」と話す。
同作の演出を担当した井上剛さんは、過去に同じ土曜ドラマ枠で「クライマーズ・ハイ」や「ハゲタカ」を手掛け、近年では朝ドラ「あまちゃん」のチーフ演出も務めたことでも知られている。
碓井教授は「土曜ドラマは、古くは山田太一シリーズ『男たちの旅路』などの名作を送り出してきた伝統的な枠。視聴率は高くなくても、大人が楽しめる良質で本格的なドラマが多い。また、NHKの名スタッフが育つ場にもなっている」と指摘する。
土曜ドラマでは5月30日から、シンガー・ソングライターのさだまさしさんの自伝的青春物語をドラマ化した「ちゃんぽん食べたか」の放送がスタート。舞台となる昭和40年代がどのような映像でよみがえるか、注目される。
「ドラマ10」女性向けだが…
一方、火曜の「ドラマ10」は、大人の女性向けドラマを多数、送り出している枠だ。平成22年には、不倫を扱った「セカンドバージン」が物議をかもしながらも支持を集めた。NHKの連ドラは一桁台の視聴率にとどまることも少なくないが、同作は徐々に数字を伸ばし、最終回には初回の2倍以上の11・5%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録。後に映画化もされた。
碓井教授はこの枠の傑作として、「セカンドバージン」と「はつ恋」(24年)、「さよなら私」(26年)の3作を挙げる。「NHKの高い制作力を生かし、女性視聴者の共感をつかんでいる」と碓井教授。
だが、芸能界を舞台に、女性マネジャー(仲間由紀恵)と俳優(町田啓太)の奮闘を描く放送中の「美女と男子」に対して、碓井教授は辛口だ。
「NHKが手を出してはいけない題材で、芸能界の描写も嘘くさい。話数が長すぎるせいか、1話当たりの内容も薄めだ」
NHKの連ドラは、民放に比べて話数の少ないものが多かったが、「美女と男子」では初めて、全20話という長編に挑戦している。ただ、視聴率も3話以降、5%を割り込み、好調とはいえない状況だ。
視聴者の分散はやむを得ない
NHKの連ドラが朝ドラや大河に比べて目立ちにくく、視聴率も伸び悩んでいるのは、作品の話数が全体的に少なく、作品数も“乱立”しているからではないか-。
この仮説に対して、碓井教授はこう指摘する。
「趣味や嗜好(しこう)が多様化していくなかで、大人の男性向けや女性向け、そして時代劇など、“店”の数が増えていくのは自然なこと。視聴者が分散するのはある程度、やむを得ない。視聴者にとってはむしろ、自分の気に入る作品を見つけるチャンスが広がっているのではないか」
BSプレミアムで昨年秋に放送された「徒歩7分」は、32歳独身女性の平凡な日常を描いた実験的な作品だったが、脚本を担当した劇作家で俳優の前田司郎さんが同作で向田邦子賞を受賞。リアルタイムでの注目度が高くなくても、内容が評価される作品も少なくない。
民放も含め、数あるドラマの中からお気に入りを選ぶ「目利き」の力が、視聴者にも改めて求められるような時代になっているのかもしれない。(三品貴志)
(産経ニュース 2015.06.04)