ヤフー!ニュースでの連載、碓井広義の「わからないことだらけ」。
このブログにアップしていなかった分を、転載しておきます。
桂米朝のドキュメンタリーに、
「落語」の底ヂカラを見た
6月20日に放送された、NHK・ETV特集『洒落(しゃれ)が生命(いのち)~桂米朝 「上方落語」復活の軌跡~』が、「落語」の底ヂカラを示して、見ごたえがあった。
今年3月に、89歳で亡くなった桂米朝。上方落語だけでなく、落語という文化そのものを支え、発展させてきた功労者だ。この番組は、師匠の歩みを辿る人物ドキュメントであると同時に、上方落語への見事な案内状でもあった。
神主の息子に生まれがら、子供の頃からの落語好きだ。昭和20年に19歳で召集されるが、病気で入院する。傷病兵たちの前で語った一席で、「笑いだけでなく、生きる力を与える」落語の凄さを再認識するのだ。戦後、桂米團治に弟子入りしてからの活躍は言うまでもない。
また、番組を見ていて、師匠が続けてきた地道な取り組みに驚く。先輩の落語家たちを訪ね歩き、古い埋もれた噺を掘り起こしていったのだ。
たとえば「天狗さし」という一席がある。天狗を捕まえ、すき焼きならぬ「天狗すき」を作ろうという話だ。その中に登場する、「念仏ざし」という言葉の意味を探し続けるエピソードに、その人柄がよく表れていた。
番組で師匠について語る人たちも、大西信行、矢野誠一、筒井康隆、山折哲雄など、そうそうたる顔ぶれだ。
中でも矢野が語った、“東京進出”の回想は貴重だろう。師匠の大ネタ「地獄八景亡者戯(じごくばっけいもうじゃのたわむれ)」に度肝を抜かれた、当時41歳の立川談志の姿が浮かんでくる。
噺の発掘だけでなく、新しい話芸を作ること、また後進を育てることにも努めた桂米朝。「落語は現世肯定の芸であります」の言葉が印象に残る、良質なドキュメンタリーだった。
再放送は、6月27日(土)よる0時(金曜深夜)から。見逃した大人たちに、オススメしたい。
(ヤフー!ニュース 碓井広義の「わからないことだらけ」2015.06.26)