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週刊現代 『あまちゃん』緊急座談会 (後半)

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発売中の週刊現代に掲載されている『あまちゃん』緊急座談会。

これに参加させてもらっていますが、読み返すと、あらためて宮藤官九郎さんの脚本の凄さに感心します。


【緊急座談会】
松平定知×碓井広義×中森明夫

じぇじぇじぇ! 
連ドラ『あまちゃん』にハマっちゃったべ

 (後半)


3・11をどう描くか

中森 これでクドカンも一躍国民作家ですね。
碓井 彼も元々はマイナーな舞台人。ドラマ『池袋ウエストゲートパーク』(TBS系)や映画『GO!』でゼロ年代初頭に颯爽と登場し、一部の若者には絶大な支持を得ていたけれど、幅広い層にウケる脚本家ではなかった。だからクドカンにとって『あまちゃん』は、言わば第二のメジャーデビュー作。勝負の一作だったはずです。
中森 この他にも、八木亜希子が元女子アナ役だったり、今後薬師丸ひろ子がアイドル役で登場予定だったり、ドラマ世界と現実世界が入り交じっていて、様々な深読みができる。それもこのドラマの面白いところだと思います。
松平 王道的な朝ドラとしてしっかりクオリティを保ちながら、こうしてツッコミどころをたくさん仕込んでくるクドカンの手腕というのは恐ろしいですね。
中森 本当に脱帽ですよ。先日は、アキの親友役の橋本愛が、映画で共演した俳優の落合モトキとフライデーされ、その翌週に落合が『あまちゃん』に登場したりして、「これもクドカンの演出なのか?」と一瞬疑ってしまった。それも『あまちゃん』が現実と虚構を越境するドラマになっているからです。
松平 NHKの公式発表によれば、ドラマの後半、アキが上京してアイドルグループ『GMT(ジモト)47』の一員として奮闘する物語になるとか。海女ドラマからアイドルドラマに大きく舵を切るようですね。私としてはついていけるか不安です(笑)。
中森 私にとっては望むところなんですが(笑)。
でもそういう展開になったときに、中年男性の水先案内人を務めるのが小泉今日子でしょう。小泉今日子というのは、特別なアイドル。30年間アイドルとしてやってきて、いまでもアイドルです。このドラマは彼女がいたからこそ成立したと言えます。小泉今日子は影の主役といってもいいかもしれない。
碓井 今後のことで言えば、もう一つ気になるのが、東北(宮城県)出身のクドカンが、3・11をどう描くか、ということです。おそらくそのために、『あまちゃん』の舞台は、わざわざ08年と少しだけ過去に設定されている。
中森 朝ドラというのは本来、女の一代記であると同時に、戦争の物語でもあるんですよ。『おしん』だって『澪つくし』だって、戦争がドラマの重要なファクターとなっていました。だから終戦記念日の頃になるともんぺを履いて空襲、というのがかつての朝ドラのパターン。近年はすっかり忘れ去られていましたが、『あまちゃん』では3・11が戦争の代わりになるわけです。
碓井 被災から2年が経ちますが、日本のドラマはまだ一度も正面から東日本大震災を描けていません。昨年の話題作『最高の離婚』(フジ系)は震災をきっかけに結婚した夫婦のドラマでしたが、舞台は東京だった。おそらく『あまちゃん』は日本初の本格的震災ドラマになります。
中森 能年玲奈のいまの凛々しくかわいらしい顔が、3・11という極限を前にした時、どう変わるのか。その顔が見たい。
碓井 その震災の描き方の予想のひとつのカギは、ナレーションだ、という話があります。
松平 ナレーションは祖母・夏役の宮本信子さんが担当されていますよね。あれもハマリ役だと思います。
碓井 ナレーションは普通、第三者的に、いわゆる神の視点で物語をナビゲートするか、登場人物が回想として心の声をナレーションするか、のどちらか。でもこの夏のナレーションは、その両方をこなし、さらに夏以外の登場人物の心の声も語る。役も神も超越してしまっているわけです。
 ここから「夏は11年の震災で亡くなってしまうのではないか。そして霊となって08年に遡行してアキたちを見守っているのではないか」という予測もあるようです。
中森 鋭い意見ですね。そう考えれば色々と合致してくる。
松平 震災後、アキはどんな行動をとると皆さんは予想されますか?
碓井 アイドルとして三陸に戻るんじゃないでしょうか。被災した地元の人々の元に駆けつけ、震災と向き合う。そこにアイドルを描くことの意味があると思うんです。

ドラマと現実の境目が消える

中森 震災以来、現実のアイドルであるAKB48が被災地訪問を続けている姿と重なりますね。
碓井 そうですね。中森さんのような専門家の前でアイドルを語るのもおこがましいのですが、私はアイドルというものは、人を元気にさせる存在だと定義しています。その意味でアイドルは、最も遠いように見えて、最も朝ドラのヒロインにふさわしい職業かもしれない。
中森 私は能年玲奈が劇中のアイドル名義でCDデビューするんじゃないかと睨んでいるんですよ。それで紅白歌合戦に出場する、と。朝ドラ主演女優としてではなく、「天野アキ」という歌手として。
 97年の朝ドラ『ふたりっ子』では、劇中歌手のオーロラ輝子がCDを出して大ヒット、その年の紅白にも出場しましたから、ありえない話ではない。
松平 大友良英作曲、クドカン作詞で、小泉今日子が歌うドラマオリジナル曲『潮騒のメモリー』も発表されましたからね。期待していいかもしれません。
碓井 そうなるといよいよ現実と虚構がないまぜですね。面白くなりそうです。
中森『あまちゃん』は本当に文句なしのドラマなんだけど、ひとつだけ苦言があるんですよ。ドラマの直後に始まる『あさイチ』です。
 キャスターの有働由美子アナと井ノ原快彦(∨6)が、冒頭でいちいち「じぇじぇ!」とか言いながら、ドラマの感想をコメントするんです。せっかく爽やかな気分になっているのに、急に現実に戻される。あれはやめていただきたい(笑)。
碓井 わからないでもありませんが……。
中森 だから最近は『あまちゃん』が終わったら慌ててテレビを消すようになりました。
松平 私はノーコメントで(笑)。

(週刊現代 2013.06.01号)


週刊現代 『あまちゃん』緊急座談会(前半)
http://blog.goo.ne.jp/kapalua227/e/12d676d5551435d5d6e215a54d65e2ab

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